第3話 普通の家庭……?

 レティルとかいう奴のせいでいつもより遅れたが、ようやく家にたどり着いた。


 俺の家は昔、父さんが会社を創設し、社長だったが、倒産し借金まみれになった。そんな時、母さんは「ちょっと世界救ってくる」と言い残して家を出て行き、そのまま二度と帰ってくることはなかった。父さんは、借金を返すため、コネを使い何処かの大手企業に就職したが、転勤となったため俺と妹をこの家に残し、一人で北海道へと向かった。幸い、借金はその会社の社長さんが良い人で、全て払ってくれ今はなんら不自由なく暮らしいている。


 一息付き、ドアノブに手をかける。


「ただいま」

「おかえりなさいませ、お兄さまぁ!」

 

 入った瞬間メイドの格好をした、小さい女の子がそう言って抱きついてくる。


「今日の学校はどうだった?」

「いつも通り、全ての授業で寝てやりました」

「なんで、それで毎回高得点を叩き出せるんだよ」


 彼女の名前は、星雲小夜さよ。俺の妹だ。体の成長はかなり前に止まっており、中学二年にも関わらず小学生と間違われるほど幼い容姿をしている。何故、メイドの格好をしているかというと、演劇部の役作りのためだそうだ。


「それで、お風呂にします? ご飯にします? それとも、わ・た・し?」


 そんな事を言いながら、服を少しはだける。


「わたしって、小夜がただゲームやりたいだけだろ? ご飯ってカップラーメンだろ? 小夜、料理出来ないし」

「もぉ! 子供じゃないんだから私だって、料理くらいできるもん! お兄さまはお風呂沸かしておいたから、先に入って! ご飯作るから」


 「はいはい」と軽くあしらい二階にある自分の部屋に入り、荷物を置き着替えを持ち脱衣所で脱いでいると、なにやら台所の方から声が聞こえてきた。


「熱いぃ! ひぃ、床がビショビショだぁ! 雑巾雑巾、あっこれ雑巾じゃなくて、お兄さまのパンツ!」


 俺のパンツは雑巾と間違えるほど汚いのか! と、ツッコミたい気持ちを抑え風呂場に入る。不安だ……。

 

 風呂場は荒れていた。あたりに泡と石鹸が散乱しており、シャンプーなどの置き場は、なんというかグチャっとしていた。

  

 いやまあ、頑張ってくれた気持ちは伝わるんだが……、むしろ手間が増えるんだよな……。


 全ての泡や石鹸を洗い流し、体もしっかり洗って風呂に入る。…………、流石にこれは大丈夫。そう思っていたが、お湯ではなく水風呂だった。寒い……。


 風呂から出て、台所に行くと小夜がニコニコしながら待っていた。


「ふっふっふ、お兄さまもこれを食べれば、私を認めざるおえないはずです」

「何を作ったんだ?」

「ラーメンです!」


 食卓に被せられていた、布を取るとそこから黒く禍々しい色をしたラーメンらしきものがそこにあった。


「これ……、どうやって作ったんだ?」


 こんな食べ物が、現実にある事を受け入れきれず、ついそう聞いてしまう。


「これですか? その前にまず一口食べてください!」


 えっ、これ食べるの? お願いだからそんな、キラキラした目で俺を見ないでくれ……。

 

 覚悟を決め、口に押し込む。なんというか味はお察しの通り、激マズだ。なんとか、抑え込んでいるが正直吐きたい。


「これ、何が入ってるんだ?」

「ふっふっふ、これはですね。最近、お兄さまがお疲れなさっていると言ってましたので、水の代わりに栄養ドリンクとエナジードリンクを使いました。更に、男の人は黒が好きということで、この食紅をふんだんに使用し染め上げました」


 むしろ、なんでそれが美味しくなると思ったんだ? 合わせちゃいけないもの同士をかけ合わせてるじゃないか。


「小夜、よく覚えておけ。確かに黒という色は好きだが食べ物で完全に真っ黒なものは嫌なんだ」


 まあ、どの色でもおかしいが。こんな、ガチの黒を料理以外でも見るのは初めてだ。確かこういうのをベンタブラックっていうんだよな。


「そうなのですか。なら、次は金色にしてみますね」


 出来れば、二度と作らないで欲しいんだが……。というか、これ全部食べなきゃいけないのか? もう一度いうが、そんな目で俺を見るな!


 





 寝る直前、パジャマ姿の小夜が枕を持ってやってきた。


「ねえ、お兄ちゃん」

「なんだ? もう夜中の一時だぞ、どうしたんだ?」


 いつもは、十二時になったらすぐ寝るのに珍しいな。


「今からゲームしない?」

「何を馬鹿なこと言ってるんだ。もうこんな時間だし、明日起きれないだろ?」


 そう言うと、小夜は口を膨らませる。


「そんな顔しても、駄目なもんは駄目だから」

「最近、私寝付けないの」

「寝付けない? ゲームのしすぎなんじゃないか?」

「気になることがあってね。最近、夜遅くに兄さんの部屋の前を通るとゴソゴソ音が聞こえるの。あれってなぁに?」

「えっ……? なんで、そんな事を聞くの?」


 いやぁ、別にゴソゴソなんてねぇ。してないし……、うん。


「トイレ行くとき怖くて……。もし、兄さん以外の他の人だったら」


 本当の事を言うわけにもいかない、適当に誤魔化すしかないか。


「えっと……ただ、俺が夜中に起きて物を探してるだけだよ」

「じゃあ、兄さんが入った後にトイレに入るとたまに変な匂いがするのは?」

「それは、ただ芳香剤を新しくしただけさ」

「じゃあ、最近夜中に外からお……」

「全部俺だから、もう寝ろ。明日も学校なんだから!」


 これ以上質問される前に、小夜を追い出し眠りにつく。はぁ……、小夜はまだ純粋なんだな。このまま穢れないといいけど。それとも、本当は既に汚れているが隠しているだけとか!? まさか、学校では時雨のようになってるとか……。流石にないか。


 電気を消し、そのままベッドにダイブした。


「そういや、結局あの美少女の厨二病は何だったんだろうか」


 二回ほどキスされたが……。まあ、厨二病の変人だし、もう関わることもないか。








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