第6話 転校生? 嫌な予感が……
教室に入ると、水羽も漆原既におり、窓際の時雨の席に集まり何やら話をしていた。
「なんの話をしてるんだ? 全員集合して」
「なんか、今日転校生が来るらしいの。だから、どんなやつかなと思って話してたのよ」
転校生……? 昨日の今日で嫌な予感しかしないが……。あいつじゃないよな? 大体の漫画やゲームだとありがちな展開だが。
「私は、下ネタを語り合える女の子がいいかしら。逆に下ネタを聞いただけで顔を赤らめるような人なら不合格よ、出ていきなさい」
なんで、お前はそんな上からなんだ。それに、そんな堂々下ネタを言ってる女子嫌だ。
「はぁ……。じゃあ、水羽は?」
「私……? うーん、男の人がいいな?」
「男か……。なんか、以外だな。なんで?」
「男の人なら、……くんを取られる心配ないし」
誰かの名前なんだろうが、そこだけミュートくらいまで声量が下がって聞き取れなかった。
「ん、なんて言った? 何を取られるって?」
「なんでもない、聞かなかったことにして!」
水羽は珍しく、声を上げ顔を赤らめて後ろを向く。
「それで漆原は、どんなやつがいいの?」
「そんなの決まってるじゃない。あたしと対等に殴り合える奴よ。この際、男か女なんて、気にしないわ」
なるほど、流石戦闘民族ゴリラだ。既に、化け物じみてるのに何処まで強くなる気なんだ。
「そういう問題か? てか、男でもいいなら今いるこのクラスの奴らでもいいんじゃないか?」
「だめよ、このクラスの男子は皆弱っちいから。たとえ、全員でかかってきても一人で圧勝出来る自信があるわ」
そう言って、高らかに笑う。そういうことを言って暴力を振るうから友達が出来ないんだな。
「それで、星雲は? どんな人だったらいい?」
「俺? うーん、暴力を振るわず変態でもなく、ましてやストーカーになんて絶対にならず、優しく俺と友達になってくれる人かな」
こんな奴なら、ウェルカムだ。むしろ、こっちが友達になりたい。こんな、変人三人じゃなくてな。
「つまんないわね」
「つまらないわよ」
「なんだと、お前らがおかしいだけだ! なんだよ、下ネタを語り合えるって、そんな女子時雨しか居ねえよ! 漆原も殴り合える奴だと、お前レベルの力を持つやつがそうポンポン居てたまるか、戦闘民族ゴリラが!」
つい、カッとなって本音を言ってしまった。様子を伺うと漆原は満面の笑みを浮かべながら、指をポキポキならし近づいてくる。
「誰が、戦闘民族ゴリラですって?」
「すまん、勢いあまって本音を……」
「もっと悪いわ!」
土下座をしたが、許してもらえるはずもなく、頭を思いっきり踏まれた。
「い……たい…………」
「漆原さん、もっとやっていいわよ」
「もちろんよ、この馬鹿に分からせてやらないとね」
馬鹿はお前だ! と言いたいが、これ以上口を開くと悪化するので黙っておこう。
「はーい、皆さん。席についてください」
そう言って、先生が入ってきたので漆原は最後に一撃入れた後やめてくれた。
「次言ったら、ただじゃおかないからね」
既に、体の節々が痛いのにこれ以上どうする気なんだ。体を起こし、席に座り先生の方を見ると、話始めた。
「はーい、それでは今日転校生が来ています。男子の皆さん、おめでとうございます。女の子ですよ、更にとてつもなく美人のね」
男子達は、雄叫びのようなものをあげ、暴れ始めた。まあ、今ままで美人は居たものの、ストーカーと変態とゴリラだったからな。新たな美人が来ることが嬉しいのだろう。
「それでは、入ってください」
外から入ってきたのは、きらびやかな銀髪に整った顔立ち、胸もかなりありスタイル抜群。そして、完璧にうちの制服を着こなすレティルだった。
何も知らない、男子達は更にあれ狂い、血の涙を流すものも居た。こいつら、大丈夫か?
「それでは、自己紹介をしてください」
「私は星雲レティルです、そこに居る星雲広樹の妹です。今日からよろしくお願いします」
星雲広樹の妹……そのワードが出た瞬間、男子達はピタリと体を止め自分の席に戻り、お通夜のような静けさとなっていた。
変人認定されている、俺の妹が来たと思っているのだから、仕方ないと言えば仕方ないか。逆の立場だったら俺も、そうなるしな。
「それでは、どこに座ってもらいましょうかね」
「先生、席替えをしませんか」
隣の席の時雨が、立ち上がりそう提案した。
「席替えか、なるほど。最近してなかったしいいかもね。分かった、なら今すぐやりましょうか。待ってて、今からクジを作るから!」
今からクジを作って、席替えをするって間に合うか、これ。そう思っていると、レティルが何処からともなく箱を取り出し先生に渡す。
「先生、ここにクジがもう入っているのでこれでやりましょう」
「これ、どうしたの? レティルさんが作ってきたの?」
「はい、こうなるかもしれないと思って事前に作ってきました」
嘘だろ、今魔法で作ったんだろ。まあ、これで席替えが出来るからいいか。
「ありがとう、レティルさん。さあ、席替えするわよ!」
なんで、先生が一番興奮してるのだろうか。
とりあえず、結果だけ言おう。最悪だ。前とほとんど変わらないどころか、前の席がレティルになった。隣は前と同じく時雨、後ろ二人も水羽と漆原だ。
「この四人は運命の赤い糸かなんかで繋がれているかしら」
「まあ、どうだっていいわ。また近くになれたんだし」
「ほんと……ね」
俺としては最悪の結果なんだが……。しかも、今度は前の席がレティルだし、面倒くさいことになりそうだ。
「三人ともよろしくお願いしますね」
早速、前の席のレティルがこちらを向き話しかけてきた。
「レティルさん……と言ったかしら。あなたは、巨乳と貧乳どちらがお好みかしら」
いきなり、初対面のやつに向かってなんて事を聞いているんだ。
「巨乳と貧乳? うーん、よく分かりませんが、巨乳ですかね。大は小を兼ねるといいますし」
「なるほど、合格よ。これからよろしく」
「はい、よろしくです」
なんで、それだけで友情みたいなものが芽生えてんだよ。レティルも、真顔で答えんな!
「一応、三人とも自己紹介をお願いできますか?」
「分かったわ、私は時雨長門。好きなものはおっぱいと下ネタ。嫌いなものは下ネタを言って恥ずかしがってる奴よ」
それ、大半の高校生に当てはまるんですが。
「私は漆原つかさ。好きなものは星雲を殴ること。嫌いなものは特には無いわね。これからよろしく、星雲の妹さん。安心して、殴るのは星雲だけだから」
俺が、安心出来ないんですが。
「私は……、水羽光。好きなものは……、……くん。嫌いなものは……くんに群がる、カス」
なんで、水羽はたまに声が一気に小さくなるんだ? レティルは聞こえているようだが。
「皆さん、個性的ですね。ふつつかものですが、これからよろしくお願いします」
「もちろん、これからよろしく」
一通り、話を終えたのを見計らい、俺はレティルを人気の無い場所へと連れ出した。
「おい、何をやってるんだ。あらかた予想はつくがどうやって、転校してきた」
「普通に、魔法で札束を作ってそれを学院長に渡して入りましたが?」
「うん、それを普通とは言わないからな」
札束を作るのも普通に犯罪だし、それに学院長がそれに惑わされるなんて大丈夫か? この学校。
「というか、なんで来たんだ?」
「どういう意味ですか?」
「いや、なんでこの高校にわざわざ転校してきたのかなって」
別に、家で遊んでくれてもいいし、学校に来る必要などないからな。
「ああ、そんなことですか。単に、家に居ても暇だし、同い年の兄弟で私だけ高校行ってないのはおかしいですよね? なので、今までは海外居たということにして、この高校に入りました」
確かに、もし誰かがうちの家に来たときにレティルが居たら説明するのもめんどくさいしな。まあ、呼ぶような友達は居ないんですが。
「言っておくが、あの三人とはあまり関わらないでくれ」
「なんでですか?」
困惑した様子で、こちらを見る。
「なんでって、あいつら変人とお前が関わって更に俺の負担を増やしてほしくないからだ」
レティルも、顔はいいが普通に変人だからな。時雨達に勝るとも劣らない。
「でも、皆さん良い人そうですよ。かなり、個性的ですが」
「それをお前が言うか……。とにかく、頼むから極力関わるな。いいな」
「分かりました」
よし、これで少しはマシになるはずだが。
「そういえばなんですが、星雲さんはあの中で好きな人は居るんですか?」
「好きな人? お前は何を言っているんだ。あいつらを好きになれる訳ないじゃないか、ストーカーと変態と戦闘民族ゴリラだぞ?」
あいつら変人のせいで、俺は友達が出来ていないんだ。それなのに好きになるわけがないだろ、むしろ嫌いだ。
レティルは、ため息を付きうつむきながら呟く。
「そう……ですか。あっちはそうじゃないかもしれませんけど」
あっちはそうじゃないかもって、俺の事を好きって事か? いやないだろう。あいつらはただ単に、俺の事をからかっているだけで、好きとかそんなのはないだろ。普通、好きな相手に暴力なんて、振わないだろ。
「まあ、星雲さんは鈍感でもいいかもしれませんね。そっちの方が面白いですし」
そう意味深な言葉を残し、レティルはその場をさって行った。
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