第3話 変な大人


 時が過ぎるのはあっという間で、気がつけば周りは夕方だ。


 シェリルを叩いたことは、多分チェイスがなんとかしてくれているだろう。しかし、オリビア自身の気持ちの整理がつかない。


 もう春だというのに、まだ肌寒い。彼女が逃げ込んだのは、学園の敷地であるローズガーデンだ。


 寮長のシンボルであるマントが体を温めてくれる。


 そこに丁度。


「あ、居ました」


 突然、声を掛けられてビクッと肩を上らせるオリビア。そこに居たのは、新人教師のリアムだった。


 オリビアは、誰にも気づかれないようにベンチとベンチの間に挟まり、誰にも気づかれないようにしていた。


「だ、だれ」


「ちゃんと教師説明会見てなかったですね。・・・まぁ、反対の立場なら僕も見ませんが」


 よっこいしょ。と、オリビアの隣のベンチに腰を下ろし白衣からタバコを出して加えライターで火を付ける。


「学園内は、喫煙禁止ですよ」


 ジト目で、リアムを見つめるオリビア。


 白い息を吐きながら、彼は満遍な笑顔で呟く。


「教師の言う事なんて聞いてられますか?」


「あなた本当に教師ですか?」


 なんだ、この人は。と考えながら体を縮めた。


 そこから、暫く沈黙が続いたがその沈黙を破ったのはオリビアだった。


「先生・・・私こと怖くないの?」


「何故ですか?」


「だって、私魔の国の時期女王ですよ?」


「だから?」


「だからって・・・」


「争いはもう終わったんですよ。それをいつまでもグチグチと意味のない事するほど僕も暇ではありません」


「先生って、変わり者」


 そう呟くとリアムは、白い煙を吐きながらいつもの笑顔でこう呟く。


「良く言われます」


 オリビアは、この時不覚にも心を動かされた。


 少しして、リアムはオリビアと一緒に学園へ戻った。


 学園に戻ると同時に、チェイスが他の教師らに囲まれていた。


「だから、オリビアは好き好んで争いしていた訳でも、好きで魔の国の次期女王でもないんですよ!」


 遠くの方で、先程シェリルを引っ叩いてしまった尻拭いをまださせられていたのだ。自分を必死に守ろうとしている彼を見て、オリビアは心が痛かった。


 本当は、申し訳ございませんでした。と頭を下げて謝罪をしたかった。でも、どうしても体が強張って動いてもくれない。


 そんな時。


 トンッ。と、オリビアの背中を押すリアム。


「頑張れ」


 後ろを振り返った彼女に、リアムは笑顔でそう呟いた。すると、オリビアは怖くて動かない体に喝を入れてチェイスの方へ歩いて行った。


「やれやれ・・・今年の生徒は、大波乱が起きそうでね」


「大波乱は、生徒だけじゃねえかもしれんぞ?」


 誰も居なかったはずのリアムの隣に、先輩教師のルシウスが現れる。


「わぁーお。驚きました・・・」


「驚きました。じゃねぇ!!授業、何コマもサボりやがって・・・尻拭いさせられたこっちの身にもなれや!!」


「優しい先輩を持って僕は、とても幸せです」


「あーそうかい。じゃあ、幸せついでに俺のタバコを買ってこい」


「・・・っち。この不良」


「どっちがだ」


 このあと、リアムはタバコを買わされたのであった。

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