シーズン5

それぞれの救世主

「なんてことをしてくれたんだ、

おかげで町は食糧難に追い込まれることになるんだぞ。」

小さな町にある唯一の食糧庫は、男が鍵をかけ忘れたせいで、

見るも無残に害獣に食い荒らされていた。


町での仕事を与えられ、

大きなミスを犯すたびに転々と持ち場から追い出され続けていた男は、

とうとう食糧庫の倉庫番しか仕事がなくなっていた。

しかし、こうして倉庫番としても働けなくなってしまった今、

男は窮地に追いやられていた。


町の人々は男の処分について相談し合う。

「なぜあいつに食糧庫を任せたんだ。この状態でどうやって冬を乗り切るんだ。」

「しかしもうあそこしか働かせる場所がなかったんです、

みんな彼と働くのを嫌がってしまって。」

「この罪の責任は重くなるぞ。

働きで挽回できるほどの能力も無い以上、町を追放する他ない。

第一、こうなってしまった以上穀潰しの面倒を見るほどの食料もないのだから。」

こうして男は町を追い出されてしまった。


男も自分のせいだと頭では分かっていたものの、やはり悲しかった。

とぼとぼと町を出て歩き続けていると、

いつの間にか町からだいぶ離れた荒地に流れ着いていた。

そこで男は小さな集落を見つけた。


集落の人々は通りすがりの旅人を歓迎し、迎え入れてくれた。

その集落では町と違い文明や生活様式は発展しておらず、

やや原始的な暮らしが行われていた。


男はしばらく過ごしたある日、用水路の欠陥に気づき近くの農民に声をかけた。

「この作りだと雨の日に洪水を起こして溢れてしまいませんか。

逆流しないようにかえしをつけてはいかがでしょう。」

農民は目を丸くして驚いた。

「確かに。今までずっとこうしてきたので、

そういうものだと思っていましたが確かにその通りです。

よくひと目見ただけで気付きましたね。」

男は町にいた頃、農地で働いていた時に、

これより進歩した用水のつくりを見ていたからだ。

「ちょっとそれでしたら、こちらの部分も見ていただけませんか…」

「こっちの方も見てくれ。頼む。」

そうして男は集落じゅうで引っ張りだこになった。

男は町で見た進んだ技術の数々を、

見よう見まねで集落の中で再現していき、様々な設備を改良していった。


「あなたは集落の救世主だ、おかげでどんどん生活が向上していきます。

どうぞここに残って発展を支えてください。」

男は嬉しかった。自分の活躍できる場所をとうとう見つけたと思ったのだ。

「ええ、私でよければ是非…。」

今まで文明の発展した町の中でうまく仕事をこなせなかった男は、

文明のない集落の中では文明を授ける救世主として崇められる様になり、

その後も幸せに暮らした。


一方、男を追放した町の方では食糧難の冬をどう乗り切るか苦心していた。

「穀物がないとなるとこの冬は絶望的だ。

今から育てるにしても到底間に合わない。」

すると、その会話を遠くで聞いていた旅人が近寄ってきた。

「食糧難でお困りのようですね。良い解決案がありますよ。」

「なんだ、教えてくれ。」

「狩りをするんですよ。幸いここから少し離れた山には良い狩場があります。

沢山鹿や兎がいますから、冬を乗り切るには十分な食料が確保できます。

この町の人は文明が発展しており、原始的な狩りをしたことがないでしょうから、

そこは私が手ほどきしましょう。」

「素晴らしい。ぜひとも暫く町に留まってくれないか。君は救世主だ。」

「ええ、私で良ければもちろんですとも。」


その旅人は、町を追い出され集落に来た男とは入れ違いで

その集落を追い出されていたのだ。

いくあてもないまま文明の発展した町を訪れた彼は、

持ち前の原始的な狩りの技術を授けたことで救世主として崇められる様になり、

その後も幸せに暮らしたと言う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る