うまい言い訳

男は大きな企業で働く平凡な会社員。

そこまで優秀でもなく、大した成果も出さない割には給料は悪くないので、

独り身というのもあり、悠々と暮らしていた。


ある日、男は仕事でミスをしてこっぴどく叱られた。

単なる男の注意不足が原因だったので、

怒る上司に言い返せることは一つもなく、その日はとぼとぼと帰路についた。

「にしても今日はやっちまったな…俺が悪いのはそうなんだが、

一方的に怒られるのはやはりどうも気分が良くない。

毎回とっさにうまい言い訳の一つでも考えられればな。」

すると男の携帯が鳴った。メールのようだ。


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うまい言い訳が思いつかず失敗した経験はありませんか?

周囲の会話を分析しイヤホン型の装置がその場にぴったりの言い訳を囁きます。>


「なんだこれ。でも面白そうだな、無料だし試してみるか。」

次の日、家に届いた装置を耳にはめて男は会社に行こうとしたが、

うっかり忘れ物をして遅刻した。

「なぜ遅刻したんだ、昨日のミスと言い、最近気が緩んでるんじゃないのか。」

するとイヤホンが会話に反応して、ピピっと作動しささやく。


「大変申し訳ございません、昨日のミスを猛反省し、

その再発防止策を自分なりに考え、寝ずにファイルにまとめておりました。

しかし寝坊は寝坊、弁明のしようもございません…」

男はイヤホンの言った通りに、同じ言い訳をした。

「なんだ、そうだったのか。まぁいい。

昨日のこともきちんと反省しているならしょうがない、次は気を付けろよ。」

あまりにもすんなり許されて男は驚いた。

「これさえあれば俺は安泰だ。どんなミスをしてもこの装置の通りに言えばいいんだから。」


その後男は調子に乗ってミスのたびにうまい言い訳を言い続けた。

するとしばらくたったある日、同僚づてに上司からメモを渡された。

【先週頼んだ仕事だが終わったのか?締め切りは昨日までだぞ。】

ああ、また謝りに行けばいいか。と男は軽く考え上司の元へ向かった。

「で、どうなんだ。」

「はい、それはですね…あれ。」

イヤホンがいつものように言い訳をささやかない。

「どうなんだと言っている。」

「それは…あ。」

男はようやくそこで気づいて、小さく声を漏らした。

すると上司はそれを見て情けなく笑った。


「やけにこのところ言い訳が上手くなったと思ってたら、

巷で会話を分析して言い訳を提案する装置が流行ってるそうじゃないか。

流石の最新装置でもメモでの説教には対応できなかったようだな。」

男は恥ずかしくて、ぐうの音も出なかった。


何も言えずにいると男の耳元で装置がピピッと鳴りささやく。

「その通りです、私はきちんと仕事をしないだけでなく、

失敗したときの言い訳のひとつさえも、自分で考えることを辞めた愚かな人間です。

今後はしっかりと自分の考えを持って…」

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