おかしなドライバーたち

「それでご相談というのは?」

博士は研究所を訪れた男にお茶を勧める。


「はい、というのも我が運送会社では人件費の高騰に悩まされてまして、

トラック運転手の代わりとなるロボットを開発いただけないかなと。」

「なるほど、そうでしたか。

それでしたら、私の発明した人型の家事用ロボットがありますから、

それを運転できるように改良しましょう。

言われたことだけをこなすロボットですから、

正確に目的地まで荷物を運ぶはずです。」

「それは素晴らしい、ありがとうございます。」

「試作品ができましたら送りますので、しばらく試験的にお使いください。」

「かしこまりました。是非ともよろしくお願いします。」


完成した試作品を送り数日すると博士のもとに再び例の男が訪れた。

「どうかなさいましたか。何かトラブルでも。」

「いえ、ロボットの方は順調です。

正確に運転をこなしはするのですが…」

「ではなんです。」

「実際に道路で走らせてみると他のドライバーたちが、

ロボットが運転しているのを見て、

からかって煽り運転をするようになったんです。

それで小さな事故や遅延が起こるようになってしまって。」

「なるほど、ロボットも外的要因には対処できませんからね。

よろしい、それではまた改良しましょう。」


「と言いますと、どのような改良を?」

「自動学習型の人工知能を搭載するのです。

運転するうちに周りのドライバーから運転の傾向を学び、

目的地まで意思をもって運転するようになるのです。」

「煽られてもうまくあしらえるようになるというわけですね。」

「ええ、数日も走らせれば人間の運転と相違ないものになりますよ。」

「人間顔負けの、疲れ知らずのロボットドライバーが誕生するわけですね。

是非大量に作ってお送りください。謝礼はいくらでもお支払い致します。」


その後、大量のロボットドライバーたちを博士は作り上げ男のところへ送った。

「あれからしばらく経つな。今度こそトラブルがないと良いのだが。」

そう博士はくつろいでいると、顔を真っ青にした男が息を切らしながらやってきた。


「まさか、また何かトラブルですかな。」

「トラブルなんてものじゃないですよ。

今や我が社は賠償請求やら訴訟対応で大忙しですよ。」

「何と。いったいなにが起こったんです。」

「あのロボットたち、最初のうちはきちんと運転していたんですが、

次第におかしな動きを見せはじめまして。」

「というと?」

「いつからか、他の車を追いかけ回すようになったり、

スピード狂のように速度違反を繰り返すようになってしまったんです。

もう私には一体何が何だか…」

「なんと、それはいったいどうしたものか…」


事態を飲み込めていない男と対照的に博士には全てわかっていた。

自動学習型のロボットたちは、周りの人間の運転を参考に成長していく。

ロボットの違反運転が増えたということは、

それだけまわりに違反をする人間が増えたと言うことだ。


「はてさて、どうしたものか。

この場合悪いのは私のロボットなのか、

それともロボットに悪い手本を見せたまわりのドライバーたちなのか…」

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