理想の出会い

「けっ、じゃまなガキだな。うるせえったらないぜ。」

楽しそうに遊ぶ子供達を見ながら男は吐き捨てる。

近所でも有名なほど卑屈なその男は、

その悪態ぶり故に家族からも孤立し、恋人はおろか友達すらいなかった。

休みの日も誰にも会うことなく、こうして外をふらついては目に入る物すべてに文句をつける。


「ああ、今日も憎たらしいほどの晴天だ。

気分が良くないからどこかの店にクレームでもつけにいくか。」

そう漏らしていると男の携帯にメールが届く。


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「なんだ、これ。また迷惑メールのたぐいか。」

そういって携帯を閉じようとしたが、ふと思い立ち

「いや、やっぱり試してみよう。上手く行くはずがないからな。

今日は誰かの揚げ足をとって文句を言ってやりたい気分なんだ。

クレームのネタとしては面白いだろう。」

そう言い、男は指定された欄に情報を入れていった。


しばらくそれ以降男のもとに連絡が来ることはなかったが、

ついにある日携帯が鳴った。

見ると、見知らぬ女性からのメッセージ。


「AIの紹介で連絡しました。どうぞよろしくお願いいたします。」

「や。ほんとにきやがった。いや待てよ、これはサクラか何かに違いない。」

そう疑い男はあらゆる悪態や憎まれ口を叩いてみたが、

なんと言おうと相手の女性は感じよく返事をするだけだった。

おしとやかそうなその相手は常に男を立て、話し相手となり続けた。

「驚いたな、ほんとにこんな女性もいるものだな。」

男はすっかり面食らってしまった。


以降、あれだけ叩いていた憎まれ口は自然と減り、

苛立ちの気持ちも減り徐々に丸くなっていった。

女性の優しさが男を変えたのだ。

しばらくたって男は女性にメッセージを送る。

「どうだろう、よければ2人で会ってみないかな。

君みたいな人は今まで出会ったことがない。何か運命を感じるんだ。」

すると女性は承諾した。


2人で会う約束の時間になり、男の部屋のチャイムが鳴った。

男が満面の笑みで扉を開けるとそこには、

待ちわびた女性ではなくスーツに身を包んだ男が立っていた。

「誰だお前は。」

「私はお客様がご利用いただいておりますサービス会社のものです。」

「それが何の用だ。」

「お客様がこの時間にお会いすることになっていた女性ですが、実は存在しないのです。」

「な、どう言う意味だ」

「もともと我が社のサービスはAIの判断で実在する方同士を結びつける物だったのですが、

お客様と結びつけられる該当者がいなかったようでして、

どうやらAIが勝手にお客様の理想のお相手を作ってしまったようなのです。

本来はただのマッチングAIのはずでしたので、

我々といたしましても我が社のAIの自動進化には大変驚きました、

このような事例は今までありませんでしたから。

お客様のおかげで我が社のAIが大幅に強化されましたよ。

そんなわけで今回はその謝礼をお支払いに参上した次第でございます。」

「あぁ、そんな。」

男は情けなく声を上げ膝から崩れ落ちてしまった。

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