第5話

4月、今年はあまり気温が上がらず、

入学式の日もカーディガンで登校した。


結局、あの日から、受験が終わるまでピアノに触ることなく勉強してきた。努力の甲斐もあり、県内でも有数の私立進学校、翠ヶ丘学園みどりがおかがくえんに入学した。


この高校は、質実剛健、文武両道を具現化したような学校で、卒業生は各方面で活躍。中には政治家、芸能人、スポーツ選手、アーティストなど、知らない人はいないほどの有名人を多数輩出している伝統校だ。

人気があるため倍率も高いが、その分レベルの高い生徒が集まり、ブランドも保たれている。



ここまで勉強ができて、優秀な人間が集まるが、この学校のすごいところは部活動だ。生徒主体の活動でできるだけ教員は関わらない。大人同士のやり取りが必要なときは窓口の役割をするが、顧問は5個位の部活を掛け持ち、運営は事務からコーチ探しまで全てを生徒がやる。まぁ、コネがあるので下手に教員が手を出すよりいいのだろう。


僕の目当てはこれ。部活動だ。




近藤先生に伴奏者を勧められ、影山さんの演奏をYouTubeで聴き漁った。名前で検索しても出てこないが、ソロコンを漁って見つけた。もう虜だ。


ここの学校には吹奏楽部やオーケストラ部は無い。軽音部もない。その代わり「音楽部」が存在する。ここの卒業生には音大に進学し、プロとして活躍する人も少なくない。

音楽部は、ジャンルの垣根を越えて、所属している部員が自分達でコンサート、ライブを企画する。

1人ひとりがソリストでプロデューサー兼音楽監督。

ここに来れば優秀なソリストに出会えるだろう。



入学式では、音楽部の合唱団の校歌斉唱。

うん、確かに上手い。あとで知ったが作詞作曲は

1期生が在学中にしたものらしい。

首席の人が新入生代表で挨拶。続いて、生徒会長が

在校生の代表もして挨拶をし、理事長が保護者向けのお話をして、入学式は終わった。



「ねぇねぇ、知ってる?この学校の生徒会長ってどこの大学でも特待生で進学する権利があるんだって」

教室にいくと、隣に席の子が急に話しかけてきた。

「生徒会選挙は厳しいらしいけど、あのイケメンで、頭よくて…完璧なんだろうなー」

「そうだね。ごめん、名前きいてもいい?」

「そうだった!ごめんごめん、僕は 篠原研一 。

よろしくね!」

「うん、よろしく。僕は黒崎樹。」

「樹くんね、良い名前だ。この学校の友達1号だね。」

「そうだね」



教室に入って3分。友達ができた。

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