第4話

「東海地区代表、河野 健太。サン・サーンス作曲、ヴァイオリン協奏曲第3番より第3楽章」

「近畿地区代表、灰野 悠。バッハ作曲、無伴奏チェロ組曲第1番よりプレリュード。」

「関東地区代表、イヴァノヴナ・杏奈。ラフマニノフ作曲、チェロソナタ。」

「北海道地区代表、煮雪 大斗。カプッツィ作曲、コントラバス協奏曲より第1楽章。」


流石だ。全国レベルとなると名前を聞いたことある人もいる。こうゆう人たちがこの世界で輝くんだろう、と皇くんと同じような印象を受けた。


「どうだい?キラキラして見えるだろう?」

「皮肉ですか?先生。」

「いやいや、そう受け取ったなら謝罪するよ。」

「いえ、そう思ったのも事実です。でも、なんでこれを僕に?」

「うん、それはね、一流のステージのキラキラを見て欲しかったからさ。

さぁ、管楽器部門が始まるよ。」


「九州地区代表、藤谷 叶。プーランク作曲、フルートソナタ。」

「東北地区代表。斎藤 信介。ウェーバー作曲、クラリネット協奏曲より。」

「中部地区代表、高野 響。アーバン作曲、華麗なる幻想曲。」

「関東代表、藤井 華。モーツァルト作曲、ホルン協奏曲第1番より第1楽章。」



「先生。キラキラしてない方って伴奏者ってこと…?」

「あぁ、そうだ。」

「選択肢って伴奏者を目指せってことですか?」


先生は少し考えるように間をとった。


「決めるのは君だが、私はそれを進めるよ。この前の大会で思ったんだが、君の弾き方は僕の知ってるある奏者に似てるんだ。申し訳ないが、君がソロで皇くんとおなじステージに立つのは、とても難しい。言葉を選ばないとするなら、ほぼ不可能だ。」

「えぇ、分かってます。」

「だが、伴奏者として、良いパートナーを見つければ全国、いや、世界も不可能ではない。

そして、僕が今日、君を呼んだのはそれを勧めるのと、このステージを生で聴いて欲しかったんだ。」



「本日の審査は終了致しました。

ここで、ゲストとしてお呼びしたプロバイオリニスト、神谷 慶輝 さんの演奏です。」


「神谷さん!?」

会場がざわめく。神谷慶輝というと、つい先日も国際コンクールで22歳にして最優秀賞をかっさらった、今1番ノッている奏者のひとりだ。


「曲目はベートーヴェン作曲、

ヴァイオリンソナタ「クロイツェル」」





「この曲はね、元はヴァイオリン助奏つきピアノソナタという題名だ。彼はいつも同じ伴奏者でコンテストに出る。ヨーロッパでやる国際コンクールでも、日本のリサイタルでも…って聞いてるかな?」



こんなにアンサンブル力のあるピアノ奏者はじめてだ。競い会うように、また、調和するように。

僕は心を奪われた。


「先生、彼の名前は?」

「影山 潤。大学では『影を作るピアニスト』として有名だった。メディアでは取り上げられないが、ソリストたちの間では彼の取り合いが絶えなかったんだ。今は神谷くんをメインに弾いてるようだがね。」



『影を作る』か…。

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