第3話
9月某日、僕は関西にあるホールに来ていた。
「黒崎くーん!久しぶり。」
「あぁ、皇くん。本番頑張ってね。客席で応援してるよ。」
「ありがとう。ああ、そうだ、僕は東和音大の附属高校に行くことにした。推薦で行けそうなんだ。」
「音高に推薦か、すごいな。ぼくは普通科の高校に行くよ。」
「そうか。でも、また大会で会えるからね。」
「いや、もうでないよ。」
「え。」
「うん。もう大会にはでない。」
「なんで?君の技術があれば音大だっていけるだろ。それともなんだ?君もピアノを嫌々やらされててこの期にやめてやろうってクチか?」
普段のキラキラしてる彼からは想像できないような、困惑と嫌悪とが混ざったように感じられる表情だった。
「いや、ピアノは好きだよ。」
「じゃ、なんで?」
「君には関係ないだろ!未来が明るい君と…いつもキラキラしてる君と一緒にするなよ!」
こんな大きな声を出したのはいつぶりだろう。
「ごめん、急に怒鳴ったりして。君も頑張ってるのにね。じゃあ、コンテスト頑張って。君のコンサートもチケットとれたら行くね。」
「あ、うん、えと…」
彼の返事を待たずに僕は立ち去った。
言われた時間の15分前、近藤先生がいる搬入口に向かった。先生がくれたチケットは特別なもので、予選の審査員に2席ずつ渡されるもののようだ。一般の受付でなく、裏口から入ることになっている。しかも、時間をみるとピアノ部門が終わった直後からだ。
「黒崎樹くん。1ヶ月ぶりだね。元気かい?」
「えぇ、まぁ。おかげさまで。」
「君にはどうしても見に来て欲しかったんだ。君の演奏を聴いて、どうしても。」
「あの、僕もう、ピアノコンクールには出ない気でいます。今日も招待して頂いて申し訳ないのですが、ただオーディエンスとして聴く気でいます。」
「そうか。まぁ、それも1つの選択だ。だが、今日は多分君の考えにない選択肢を提案したいんだ。」
「選択肢?ですか。」
「あぁ。まず同年代トップクラスの演奏を聴こうじゃないか。」
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