第2話
「黒崎樹くん。舞台へ。」
(え?)
戸惑いを隠せない。こんな賞聞いてない。
いや、嬉しいが、これはどうなんだ?
全国に行けないと意味ないのに…。
「黒崎くん!居ないのかい?」
「は、はい!すいません!います!」
舞台に上がると近藤先生が耳打ちした。
「悪いね、さっき僕が言い出したものだから賞状がないんだ。」
「あ、あぁ、はい。」
表彰式でこっち側に来たことがない僕にはとても新鮮で、緊張した。
「それでは、これで、第17回、関東ソロコンテスト、全日程を終了します。」
「樹。」
「父さん。うん…約束だもんね。」
「審査員賞。とったじゃないか。」
「でも全国は…。」
「あぁ、もう勉強しろ。だが、見てこいよ全国。
辞めるか決めんのはその後だ。」
「いいの?」
「ああ。」
辞めなくて済むかもしれない。それだけで気持ちが楽になって、特別賞の喜びがやっと感じられた。
「ねぇ、君、黒崎くんだよね?」
はじめて聞く声だ。振り返ると「ピアノの王子」こと皇湊がいた。
最初名前を見たときは中国人かと思ったが、純日本人で(すめらぎ そう)と読むみたいだ。
「はい。皇さん?ですよね。最優秀賞おめでとうございます。」
「ありがとう。同い年だよね?そんなかしこまらなくて良いよ。1つ聞きたいことがあるんだ。」
「あぁ、なにかな?」
「学校。どこ行くの?」
ある意味1番きかれたくない質問だ。今回ピアノを辞めるか否かも、この進路の問題で引き起こったわけで、1番の悩みの種だ。
「決めてない。けど、音楽科には行く気はないよ。」
「そっか…。実は俺も学校を決めかねててね。音大の附属に行く人か居ないかなって、探してるんだ。」
「そうなんだ。多分普通科かな。」
「そうか。ありがとう。また会えるのを楽しみにしてるよ。あ!全国のホールで会えるか!」
「そうだね、また来月。」
「ああ。」
この日を境に僕のピアニスト人生は大きく変わっていく。
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