第3話 だから俺は家を出た
少し現実の話をしよう。
さっき俺は、悠々自適な一人暮らしライフと言ったが、実際は悠々自適なんて真っ赤な嘘である。
俺は一人暮らしをしているが、親から仕送りをもらっていない。
そう、俺の家は貧乏なのである。
家賃から食事代、問題集や文房具に至るまで、自分の金で買っているのだ。
そして自分の金とは、すなわちバイトで稼いだ金。
つまり俺はほとんどの時間をバイトに費やしている。
でも、どれだけバイトをしたところで高校生の給料なんて安いものである。
俺が住んでいるのは、ギリギリ風呂がついている格安で、しかもそんなに昔ではない時に殺人事件が起こったという問題物件だ。
俺は幽霊なんかは信じないし、そこで殺人事件が起こったなんて嘘だと思っていたが、その部屋の値段が驚くほど安かったので、多分本当なのだろう。
だが、それでもだいぶギリギリなのだ。本当に。
だからまあ、先生が俺を縛れば、バイトに行ける時間が短くなって、家賃が払えなくなり、この部屋にいられなくなると考えると、自分の時間を削ることになりえるかもしれん。
このことは誰にも言ってないのだけれど。
ではなぜそうになってまでここに住みに来たかというと、……それは俺が父と喧嘩したからである。
何が発端で喧嘩が始まったのかはよく覚えていない。多分反抗期だったのと、自分の置かれている立場を見失って、薙刀の稽古をさぼるようになった。
そのときは、『自分はなんにでもなれる。自由だ。』と、自惚れていたのだろう。
そんなのはある程度金のある家でないとできないのだ。
それは喧嘩の途中ですぐにわかった。いやもしかしたら喧嘩が始まる前から、うすうす気づいていたのかもしれないが。
そんなわけで、気づいたらバイトのために自分を削り、どうにか金を節約することに頭を使い、勉学になんて集中できたものではなかった。
こんな高校生活のスタートは、決して良いものではなかった。
このバイト尽くしの毎日のおかげで、高校生になっても完全なるぼっちになることが、青春を灰色に染めることが、決定したのだ。
まあ、青春なんてどれだけしたくても来てくれるものではない。
いや、この場合、俺は向こうから青春くんが舞い降りてくるまで、
待たなければいけなかったのである。
そんな確率などないに等しい。
勝手に青春が舞い降りてくる。そんなのは妄想であり、小説の中の話でしかない。
そんな楽しみのかけらもない日常の中で、一番俺の支えになっていたのは、中三の時の担任、堺先生だ。
しかし、もうその支えすら壊してしまった。自分の手で。
さて、これから俺はどうして生きていけるのか。不安な限りだ。
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