第2話 だから俺は、先生に怒られる。
「なんだこれは、…本音であることは火を見るより明らかだが、『中学校生活の思い出と高校生活に向けて』の作文がこれか!?
これは文集として、後輩たちにも読まれるんだぞ?」
「知っていますよ、わかって書きました。…それを読んで陰キャ仲間は喜ぶと思いますよ。」
「いや、ひかれると思うぞ。」
「そうですか、そうですか、やはり惹かれますか。やはり先生も学生時代は」
「やかましいい!!!私は決してぼっちなどではない!言葉のあやだ。言葉のあや。…お前はこんなことを書いているがなあ、これで印象が悪くなるのは私なんだぞ?」
ぼっちだなんて一言も言ってはいないのだが。
「そうですか、俺も少しは申し訳ないと思ってはいなくもいなくもいなくもないんですよ。ですが人には表現の自由がありますからねえ…、これで俺がとやかく言われる筋合いはないんですよ。…それから。」
「…それから、なんだ?言っとくが私の機嫌はかなり良くない、あまり言葉を間違えると咄嗟に手が出て――」
「あの、さっきから声大きいですよ。ここ職員室なんですから…。先生方に見られてますよ?」
「んんんん!!」
言葉にならない声を上げた
「すいません、お騒がせして、申し訳ないです…。」
といきなり敬語を使って謝辞を述べた。
普段は美人冷血教師であるため、敬語はかなり新鮮だ。
こんなものレコードに残したら結構な高値で売れそうである。
もっとも、俺にはそんな相手はいないのだが…。
反省の言葉を言い終えてこちらに向き直ったとき、堺先生の顔は真っ赤に染まっていた。
いい気味である。普段から散々俺を使い走りにして、マイ悠々自適な一人暮らしライフを削っていた天罰が下ったのだ。
ま、俺にこんなにかまってくれるのもこの人ぐらいなので、許してもらうために謝罪は述べるのだけれど…。
「すいません。少しやりすぎました。賠償と言ってはなんですが、飲み物でも奢りましょうか?」
そういって俺は頭を垂れる。
「ふん、もう知らん。さっさと帰れ。お前にもう用はない。」
え……まじですか?
上を見上げると、思いっきり堺先生は拗ねていた。
こちらの方をまったく向いてくれない。
「作文も書き直しますから、どうか機嫌直してくださいよー。」
「そんなもの、知るか。お前が最初からこんなものを書いてきたのが悪い。
帰れと言ったろう?このうざったらしい悪魔め。」
こちらを向かぬまま彼女はそう告げる。
あ、ほんとに怒ってるんだ。…やっちゃったな、俺。
ライン越えだったか…
は、こうやって俺は少ない友達を失くしていくんだな。
悲しいな。いくらなんでも、今回のはマズかったか。
そう思いながら、俺は
「…はい、わかりました。堺先生、今までありがとうございました。」
と元気なく言って、職員室を出た。
もう生命力の8割ほどを削られた俺は、職員室を出るときに、
「お、おい、どうしたんだよ!」
と堺先生が慌てた声で放ったことなど聞こえなかった。
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