第2話 何かを見つけたい
目立つことも、大きい声を出すことも苦手。
考えただけで足が震える。目立たないように、地味に、無難に生きていきたい。
それなのに、私は今、ストップウォッチを持ってグラウンドに立ち、大きな声でみんなに時間を知らせていた。
声が震える。こんなに大きな声を出したのなんて生まれて初めてで、自然と顔が熱くなる。恥ずかしくて、仕方ない。
休みが多くてあまり厳しくない部活に入ろうと思っていたのに、なぜか私は体験入部が始まった途端に野球部に入部届けを出していた。自分でも不思議だけど、なぜか野球部に入らないと後悔する気がしたんだ。
「未紀もそんな大きい声出せたんだな」
「練習中におしゃべりしてたら監督に怒られるよ」
グローブを持って球拾いをしていた大輝がこちらを振り返って、楽しそうに笑う。苦笑いを返すと、大輝はさっと真剣な顔に戻り、私よりもずっとずっと大きな声を出して、グローブを構えた。
大輝は、本当に野球が好きなんだな。
大輝が小さな頃から野球を好きなのはもちろん知ってたけど、マネージャーになって練習中の大輝を見ると、改めてそう感じた。
どんなに練習が厳しくても、推薦組の人たちと扱いが違っても、どれだけ監督や先輩たちに怒られても、それでも一日も休まずグラウンドに立つ。まだ真新しい高校のユニフォームに身を包み、真剣な顔で白球を追いかける。いつかレギュラーをとるんだとキラキラした顔で語り、絶対にあきらめない。
私は、特別野球が好きなわけでもないし、がんばってるみんなを支えたいとか、そんな立派な理由があったわけじゃない。
ただ、そのキラキラの正体が知りたかったんだ。好きだから、の一言で片付けられるほど、何かに夢中になれる大輝が羨ましかったのかもしれない。
なんとなくだけど、野球部に入れば、私にもきっと何かが見つかるような気がしたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます