野球×幼なじみ×マネージメント=?

春音優月

第1話 キラキラの正体

きっと、私は、その答えが知りたかったんだ。昔からよく知っている幼なじみがキラキラしている理由を知りたかっただけ。

 

 *


「髪の毛切ったの?」


 コンビニにお菓子でも買いに行こうと家を出ると、ちょうど帰ってきたところの大輝にバッタリと会って、声をかける。


 自転車をしまいながら、私と同じ高校の学ランを着ている大輝の頭は、ずいぶんさっぱりしてしまっていた。今朝入学式の前に見かけた時は、もう少し長かったのに。

 昔から知っている幼なじみの見慣れない坊主頭。思わず凝視してしまうと、そんな見んなよと大輝は照れくさそうに視線を反らす。


「ああ、さっきな。学校帰りに切ってきた。

野球部に入りたいなら坊主にしてこいって言われたから」 


「へぇー......、今日入学式があったばっかりなのに、もう練習に行ったんだね」


 うちの高校は、文武両道がモットーとかで一年生のうちは全員どこかの部活に入らないといけない。それは私も知ってるけど、まだ体験入部も始まってないのにずいぶん気の早い大輝に驚くと、大輝はニカッと大きな口を開けて笑った。


「推薦のやつらは春休みから一緒に練習やらせてもらってるからな。俺も早く追いつかないと」


 白い歯を見せて楽しそうに笑う大輝の目は、何も迷いがないようで一点の曇りもない。大輝は子どもの頃から野球が好きで、小学校も中学校でも野球部だった。でも......。 


「ねえ、本当に野球部に入るの?

中学までよりもずっと厳しいんだよね?怖い先輩だってたくさんいるし、休みも全然ないのに」


 うちの高校の野球部は、県内ではそれなりに強いところとして名前が知られているけど、まだ甲子園にいったことはない。甲子園にいけてもいけなくても、他の部活よりもずっと厳しくて練習時間が長いことは有名だ。だから、野球部に入れば勉強する時間だって減るし、たぶん遊ぶ時間だってほとんどなくなる。


 それだけがんばっても、中学までよりもレギュラーをとるのがずっと難しいって噂なのに......。


「好きだから」


 大好きな野球を続ける以前に、大変そうなことばっかりで、正直なんだか大変そうだなぁとしか感想を抱かなかったのに。たった一言でそれを片付けてしまった大輝に衝撃を受けた。


 ただ能天気なだけかもしれないけど、それだけ夢中になれるものがある大輝がキラキラして見える。そこまで夢中になれるものが何もない私よりも、ずっとずっと先を歩いているように見えた。


 大輝はいつも、こうだ。いつも、いつも。


 大輝とは、生まれた時からお隣さんで、小さな頃からずっと一緒だった。小学校も中学校も一緒で、頭の出来も似たようなもので高校まで一緒になった。


 小学生の頃にはよく一緒に遊んだけど、だんだんそれぞれ同性の友達といるようになって、中学に上がる頃には一緒に遊ぶことはほとんどなくなったけど、それでもお隣さんだということは変わらなくて、二人で一緒に大人になってきた。


 それなのに、気づいたらいつも先を歩いてる。追いつけないくらい、私より前を歩いてる。  


 大輝がすごくキラキラして見えたと同時に、なんだかすごく、くやしかった。

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