第288話 公爵会議
「ウンガスに攻め入るとしたら、どの程度の戦力を必要とするのだ?」
騎士を何十人も出せぬ、ということなのだろう。ファーマリンキ公爵は眉を寄せ、牽制するように言う。
「戦力と数える人数はそれほど必要ないと思います。それよりも糧食の方が問題になると思います。」
誰も口を開かず、ブェレンザッハ公爵も返答に困っているようだったので、私が答えておくことにした。ここへの参加が認められているのだから、発現しても大丈夫だと思う。
しかし、思いのほか当主以外からも一斉に厳しい視線が向けられる結果となった。
「それほど必要ないとは、どれほどの数を想定してのことだ? 報告ではウンガスは合計すると一万数千という騎士を寄越してきたらしいが、それと比較すれば一千や二千は少ないと言えるだろう。」
「そこまで見込んでいません。せいぜい二百人ほどでしょうか。」
それが、問題なく突破できる戦力だと思う。目的が町を攻め滅ぼすことではないので、歩兵など全くの不要だ。
「それで勝てるのか?」
「その質問に答えるには、まず、勝利とは何かを決めなければいけません。私はウンガス王族をその地位から蹴落とすことができれば、それで勝利であると考えています。」
別にウンガスの者を全て殺戮し尽くす必要はないし、敵対する意思を見せない貴族とは戦う必要もない。
わけの分からない考えに取りつかれた現王勢力を倒してしまえばそれで良いと思っている。
「つまり、ウンガスの王宮に攻め込むということか。そんなことができるのか」
「途中の町に攻撃をしなければ良いのではありませんか? ウンガスの領主や
わざわざ敵を増やす必要はない。町や村に攻撃をしなければ、話し合いができるはずだ。わけの分からないことを要求する王族よりも、自分の領地や領民の方が大切だとする領主がいても何の不思議もない。そのような者には話し合いの余地があるだろう。
ウンガスのようにいきなり町を攻め滅ぼせば、どんな穏健派だろうと全面的に戦う以外の選択肢がなくなってしまう。領地を荒らし領民を踏みにじる者と戦わない者が領主などと名乗れるものではない。
「王族を倒し、それを戦の結末としての
頷きそう言ったのはザイリアック公爵だ。何かと敵視してくる北方貴族に素直に受け止められるとは思っていなかった。デュオナール公爵が私以上に驚いた表情を見るくらいに意外なことだ。
「それで、その軍の指揮は
「おそらく指揮を執るのはハネシテゼ・ツァールになるのではないかと思います。」
そのデュオナール公爵は不機嫌そうに尋ねてくるが、基本的に王宮を攻めるには王族が必要だ。となれば
「
「ストリニウス殿下もセプクギオ殿下も出ると思っています。ハネシテゼ様だけでは不足していますので。」
今までの戦績を考えれば、戦闘の指揮はハネシテゼが執るのが最適だという結論になるのは間違いあるまい。問題はウンガス王族を倒した後の事務的な処理だ。残念ながら、ハネシテゼにはその仕事は無理だ。王族を倒してそのまますぐに帰ってきたのでは、ウンガス国内がどのようになるのか分かったものではない。
少なくとも新しい政権を立てて和睦を結ぶくらいはしなければならないだろう。
「ティアリッテ・シュレイとしては珍しい意見だな。
「お言葉ですが、ハネシテゼ・ツァールがどんなに優秀でも十一歳の子どもですよ? 彼女のことを全く知らないウンガスの貴族が、子どもの指示に従うとお思いですか?」
私の説明に笑い声が上がるが、見た目が幼いのは本人の努力でどうこうできる問題ではない。実際に成人するまであと二年以上もあるし、バランキル王の代行だと言っても信じてもらえない可能性がある。
そういう意味では、王太子か第二王子が行くべきなのだ。第三王子でも若すぎると取られる可能性がある。
「昨年、使節として行ったのはルグニエック殿下だったな。」
「だがルグニエック殿下が長期不在となった方が、問題が生じやすいことも分かっている。」
不在時でも執務が滞らないようにと変革は進めているが、まだその体制は整っていない。来年に出るとなるとやはり昨年と同じ問題が生じる可能性が高いという。
だからといって、何年かかけて王宮内の体制が整えてからなどと悠長なことはしていられない。必然的に第二王子が出た方が効率が良いだろうという結論に落ち着く。
「それで、実際に攻めに出るのだとしたら、必要な戦力はどのような基準で選べば良いのだ?」
「基本的には二つの軸がございます。一つは年齢で、こちらはできるだけ若い方が好ましいです。もう一つは対人戦闘経験、あるいは処刑の経験がある方です。」
若い者というのは単純な理由だ。魔力量や射程距離を伸ばそうと考えたら若い方が有利だ。二週間もあれば目に見えて訓練の結果がでてくる。
その一方で、人を殺す経験をしたことがない者は戦力としてかなり弱い。敵を前にして迷いが生じれば致命的な隙を作ってしまうことになりかねない。
「処刑や対人戦闘経験などと言われてもおらぬぞ?」
「賊を討つのもそれと考えれば、全くいないこともないのではないでしょうか。」
領主や国王に反旗を翻した貴族というのは歴史上にはいくつか名前が挙げられているが、この数十年では聞きもしない。ファーマリンキ公爵はそう言うが、私が言いたいのはそう言うことではない。
「平民の賊も含めればいるのではありませんか? 少なくともエーギノミーアには処刑せざるをえない罪を犯した者はこの十年で何人かいます。」
「確かにそういった事例はあるな。残念な話だが、不作が続くと食料を奪おうとする者は出てくる。」
ザイリアック公爵が同意すると、他の公爵たちも思い当たる節はあるのか厳めしい顔で頷く。領地内は平和である方が良いに決まっている。犯罪者を捕らえて処刑するのは当然するが、根本的には、犯罪が起きない領地を目指すのが領主の仕事だ。
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