第283話 結婚について

「デォフナハ卿よ、セプクギオの様子ははどうであった?」


 次に国王から問われるのは第四王子のことだった。本人たちからの話よりも、預かった領主からの意見を先に求めるらしい。


「真面目に話を聞き、学ぼうとする姿勢は良いのですが、王族としては少々心配でございます。」


 デォフナハ男爵の目には、第四王子は従順というほどにハネシテゼに従っていたように見えたらしい。仕事も勉強もハネシテゼの指示の下で行い、しっかり経験と力を身に付けているのは良いのだが、少々主体性に欠けるように思えたということだ。


 しかし、教わったことはしっかりとできるようになり、何事も真剣に取り組み実力を伸ばしているのだという。



「二人の関係はどうなのだ?」


 第三王子の報告も仕事面からであったし、デォフナハ男爵も当たり前のようにそちらの成果の話から始める。だが、王太子はそれがどうにも気に入らないようで、二人の間柄を問う。


「師弟ですね。よくても姉弟していです。」


 王太子の質問には、デォフナハ男爵は一言で簡潔に表す。


 二人の実力差を考えると、対等となりづらいのは分かり切ってはいたが、ほぼ完全に上下関係ができてしまっているらしい。王太子は頭を抱えるが、デォフナハ男爵は思いだしたかのように言葉を付け加えた。


「教えているハネシテゼも、教わっているセプクギオ殿下も、実に楽しそうであったことは申し上げておきましょう。」


 それによって国王や第二王子まで頭を抱えるが、当人たちはきょとんとしている。


「セプクギオ殿下はとても優秀なのです。お教えしたことはすぐに実践し、できるようになってしまわれるのですよ。」

「ハネシテゼ様の教え方が良いのです。できるようになれば嬉しいですし、物事を新しく覚えるのが楽しいものだと知りました。」


 本人たちが笑顔でそう言っているのだから、私は別にそれで良いのではないかと思うが、王太子は固く目を瞑りゆっくりと首を横に振る。


「デォフナハではそれで良かったかもしれぬが、王宮内でその間がらそのままではならぬ。学年に差がある以上、完全に対等とはいかぬだろうが、周囲に差を感じさせぬようにしてくれ。」


 いくら第四王子が未成年とはいえ、王族よりも明らかにハネシテゼの方が上の立場であっては困るということだ。


「どう心がければ良いのでしょう?」

助言アドバイスを与える程度ならばともかく、公衆の面前での指導は遠慮してくれ。」

「承知いたしました。」


 具体的な方向を示されると、ハネシテゼは反論することもなく受け入れる。横で見ていると、そんなことでは二人の間柄は変わりはしなさそうだが、体面を取り繕うのも大切なことだ。



「順序が変わってしまったが、ピエナティゼは婚約者をどう見ているのだ?」

「どうと言われましても、ある程度の時間をかけて、親交を深めていくものではございませんか? ウォルハルト様は学生の頃は同じ班で行動することも多かったですが、卒業後のことはあまり詳しくありませんでしたから……」


 元々、第三王子は北方貴族から縁を探すつもりでいたから、ウォルハルトを婚姻の相手と考えておらず、ある程度の距離を保った間柄だったらしい。とはいえ、特に性格があわなかったわけでもないようで、婚約して以降は距離はぐっと縮まっている。


「私としても、同意見ですね。信頼関係とは一朝一夕に築けるものではございませんから。ピエナティゼ殿下を個人として見ても何の不服もございませんから、言葉と時間を重ねていくのが重要と考えています。」



「お兄様は結婚はいつ頃を考えているのでしょう?」

「そうだな、あまり遅くなりすぎるのも問題だが、あと一、二年後くらいならば年齢的にも問題なかろう?」


 兄はのんびりとしたことを言うが、私としてはもっと急いでほしい。諸々の都合で私の方はあまり悠長なことを言っていられないのだ。


「私としてはできるだけ早めに結婚したいのですけれど、お兄様方よりも先でよろしいでしょうか? できれば来年の春頃にでもと考えているのですが……」

「それは急ぎ過ぎではないか?」


 私の発言に王太子は驚きの声を上げる。ブェレンザッハ公爵も困ったように眉を寄せるが、私も春に結婚するというのは現実的とは思っていない。どんなに急いでも夏以降だろう。


「ピエナティゼ殿下とウォルハルトお兄様には早めに結婚してほしいのです。順番としては私が後の方が良いのでしょう?」


 私がそう言うと、兄と第三王子ピエナティゼは互いに顔を見合わせて口の端を歪める。だが、本人たちの希望よりも、諸々の都合の方が優先される


「わ、私たちは……」

「心配しなくても、わたしたちは二年以上先です。いくらなんでも成人前の結婚はありえませんよ。」


 周囲の雰囲気に第四王子が不安そうに視線を泳がせながら言うが、ハネシテゼは冷静だ。現在十一歳の彼らは、結婚の時期を決めるには早すぎる。それこそ社会情勢を見極めて決めるべきことだろう。そこまで急ぐ理由がない。


 そもそも彼らは年齢が一番下なのだから、結婚も一番後で良い。

 ゆっくり仲を深めれば良い二人は置いておき、ブェレンザッハ公爵から質問が出てきた。


「ジョノミディスはどう考えているのだ。結婚の時期は其方そなたも同じ意見なのか?」

「端的に言ってしまいますと、ウンガスが大きな動きを見せる前に済ませてしまいたいと考えています。」


 そのあたりは、ジョノミディスとは話をしている。ウンガス王国からの侵攻が再び始まってからでは、結婚どころではなくなってしまう。争いが落ち着いているうちに結婚してしまわないと、何年も先延ばしになってしまう可能性もある。

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