第256話 魔物退治のしかた

「まずは、魔物の詳しい話を聞きたい。」


 食事後は会議室へと移動して、話し合いが行われる。席に着くと、ジョノミディスが小領主バェルに退治すべき魔物の情報を求めた。


「この町からは南西に当たります。小さな川があるのですが、少し登ったところで発見されました中型の魔物の群れにございます。」


 中型の魔物でも、一匹や二匹であれば小領主バェルの騎士で対応できるが、十を超えるような群れでは手に余る。それはブェレンザッハでもエーギノミーアと同じに考えれば良いようだ。


 魔物の種類は蜥蜴猿ゴニディニ、蜥蜴の頭と尾を持つ猿というか、猿の腕と足を持つ蜥蜴ということだ。エーギノミーアでは聞いたことがない魔物だが、ブェレンザッハ西部では比較的有名な魔物らしい。


「私でも倒せる魔物だから、ティアリッテ様が心配することはないよ。」


 知らない魔物の話にどのような作戦が使えるか考えていただけなのだが、不安そうに見えたらしい。ジョノミディスがそう言うと、小領主バェルは眉を跳ね上げる。


「その、ティアリッテ・シュレイ様も魔物退治に?」

「ああ、少なくとも現時点では魔物退治は彼女の方が得意だろう。」

「このような形で差がついてしまったのは私としても不本意ですわ。」


 環境の差というものは、如何いかんともしがたい。ウンガスを警戒し見回りを怠るわけにはいかないブェレンザッハでは、エーギノミーアほど魔物退治や訓練に時間を割くことができないのはジョノミディスのせいではない。


「この辺りなら明日には終わるな。距離的には日帰りで行ける。」


 地図を見ながらジョノミディスが言い、魔物退治の話はそれで一旦終わる。その次に話すべきは、先ほどの畑であったことだ。


「ウンガスから来た者たちが、畑に魔物の植物を植えていた。」


 ジョノミディスがそう言うと、小領主バェルはまともに顔色を変える。ハネシテゼから指摘を受けて、畑で栽培されている魔物の植物を排除し始めたのは一年生のときだ。今では周知も行き届いているはずだし、禁を犯すことはないと思っていたのだろう。


 それをジョノミディスから指摘されたのだから、話の流れとしては責を問われると思ったのだろう。


「こちらからも事前に注意喚起しておくべきだった。今後も起こり得る、改めて周知を徹底するように頼む。」


 叱責はないのだと小領主バェルは胸を撫で下ろすが、話はそこで終わるわけではない。今後のやり方については、少し手をかけることになる。


「ウンガスから持ち込んだ種の類は、一度、小領主バェルの騎士の確認を経た上で植えるようにと農民には言っておいた。」

「私の騎士でも分かるのですか?」

「触れてみれば分かるはずです。とても不快な感じがしますから。」


 掘り起こした根を持ってきてあることを伝えると、小領主バェルも後ほど自分で確認してみるという。


「それと、植えるべき種が足りぬのならば早めに申し出てくれ。多くはないが余裕を持って種を確保してある。」

「心遣い、痛み入ります。」


 種播たねまきの時期まではもう少し時間がある。それまでに急いで作付けの計画を把握せよということだ。この町にも農業組合というものがあるならば資料を持って説明させれば良いだけだが、もし無いならばかなり急いで動かねばならないだろう。


 その後は、領主からの通達事項だ。ウンガスから流れてきた民への対処方法や、警戒に当たっている騎士の交代の時期など、ウンガスへの対応に関することばかりだ。聞いているだけで溜息が漏れてしまう。


「ご婚約者様には少し退屈でしたかな?」

「いえ、ウンガス、ウンガスといつまで言っていなければならないのかと思うと、少しうんざりしてしまっただけです。」

「全くだ。」

「ですが、民の間では主要な戦力は尽きたとのもっぱらの噂です。魔物を退治する騎士もいなくなり、土地が荒れ果てて逃げてきているらしいですからね。」


 頭を抱えたくなるような状況だ。ジョノミディスからも溜息が漏れる。

 ウンガス王国が何をしたいのか全く理解できないが、魔物が増えているならばそれを主力としてやってくることは想定した方がいいだろう。



 一通りの話が終わると、夜はゆっくり休み翌朝早くから魔物退治に向けて出発する。

 町を出て畑を抜け、細い道を進んでいくと、小さな村に着く。魔物が発見されたという地域はそのさらに西側だ。言われた通りに進んでいくと小川にあたり、それに沿って山を登っていくと、報告のあった魔物の痕跡はすぐに見つかった。


 そこまで確認できれば、やることはいつもと変わらない。魔力を撒いて出てきた魔物を片っ端から狩り尽くしていく。二度、場所を変えて魔物退治をしていると、大きめの魔物の気配が近づいてきているのを感じた。


 ある程度の距離を保って慎重にこちらの様子を窺っている場合のやり方も決まっている。


「一度引き返しましょう。私たちが背を向けて逃げていけば追いかけてきます。」


 少々知恵があるといっても、所詮は魔物だ。単純な手にひっかかり、簡単に森の奥から姿を現す。それに合わせて高い声を上げながら歩く速さを増していけば、蜥蜴猿ゴニディニは喜んで追いかけてきた。



「これほど簡単に退治できるとは思っていなかったぞ。」

「残っている魔物を探すのが大変なのですよ。」

「確かに……」


 あまりにも呆気なく蜥蜴猿ゴニディニの群れを退治して、ジョノミディスは肩をすくめる。ブェレンザッハの騎士たちも、やはり兄たちと同じように森の中を探索し、追い回して退治していたのだろう。ほとんど出番もないままに私が全て倒してしまい、自分たちは何のために来たのかと言いたげな表情を見せる。


「魔物退治には必ず女性を入れておくと良いですよ。男性の声では誘き出すのが難しいのです。」


 何故だかはよく分からないが、同じように男性が叫んでも魔物はなかなか出てこない。女性が叫んだ方が、明らかに集まってくる魔物の数が多くなる。


 誘き出してしまえば、雷光を撃って死骸を焼き払うだけだ。何も難しいことはない、いつも通りの作業だ。

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