第249話 これからの貴族

 北方貴族への対応は、取り敢えず様子見という方向で話が進むが、ジョノミディスの表情には不満が見て取れた。


「何か意見がございますか?」

「敢えて足並みを乱そうとする者に何の咎めも無ければ増長するだけではありませんか?」


 ジョノミディスはそう言うが、それはちょっと違うと思う。


「やる気のない者に時間や労力を割く方が無駄だと思います。頑張ろうとしている者たちはいるのですから、そちらに力を振り向けるべきではありませんか?」

「ティアリッテ様の言う通りです。周囲が功績をどんどん上げているのに北方貴族だけが何もなければ、勝手に落ちぶれていくだけです。放っておけば良いじゃないですか、そんなものは。」


 やる気がある者は取り立てて、やる気のない者は相手にしない。ハネシテゼは以前からそのような考え方をする。それに、誰の目から見ても侯爵に劣っているとなれば、公爵を降格させる理由になる。言い逃れできないような状況に勝手になるなら、なればいい。


 そもそも片付けるべき課題は山ほどあり、あちらもこちらも人手が足りないのだ。やる気のない者にかまっている暇はない。


 私たちの説明にジョノミディスは口を押えて笑いだす。そんなにおかしなことを言っているつもりはないのだが……


「賞と罰を適切に与えよと教わってきたが、そんな考え方もあるのだな。」


 ジョノミディスは笑うが、国王や王太子は苦笑いだ。やはり彼らも罰について思い悩んでいたのだろうか。聞いてみたくはあるが、とても聞きづらい。どうしようかと思っているうちに、国王が「こちらから積極的に関わらないこととする」と決を下した。



「意外と早く終わってしまったな。じゃあ次の議題だが文官や騎士が見習いとして働き始める時期についてだ。」


 現状では、一般的には学院の五年生を卒業してから、成人するまでが見習いとしての扱いになる。昨今の私たちの動きを見ていると、もう少し早めても良いのではないのかという意見が出ているということだ。


「そもそも、私は見習いがする仕事というものを存じておりません。」

「わたしもです。」

其方そなたら……」


 国王たちが呆れたような視線を送ってくるが、見習いの範囲というものが本当に分かっていない。エーギノミーアでは学生たちにも畑に魔力を撒かせたり、野菜加工の平民の管理をさせたりしている。


 しかしそれは数年前に私とフィエルで始めた新しい仕事で、従来の見習いの仕事の範疇にはないものだ。それが見習いの仕事として適切なのかはあまり真剣に検討したことがない。


 私がそう言い訳を口にすると、国王はまずエーギノミーアやデォフナハで学生にやらせている仕事を具体的に教えてくれと言う。


「具体的にですか? 一応、騎士と文官に分かれています。といっても学生を明確に騎士と文官に分けているわけではなく、学生を管理監督する者が騎士と文官で分かれているのです。騎士は畑に魔力を撒き、魔物を退治することと、収穫、それに野菜の加工が仕事です。文官は平民の作業進行管理、それに野菜の加工が仕事です。」


 それそのものは隠すべきことでもない。エーギノミーアから来ている他の学生たちにも口止めしているわけではないし、学院内で情報を集めれば知ることはできるはずだ。だが、説明していると国王たちは怪訝そうに眉間に皺を寄せて首を傾げる。


「野菜の加工とはなんだ? それは平民の仕事ではないのか?」

「収穫量が多すぎて、なにをどう頑張っても平民の手だけでは終わらないのです。洗浄のための水も足りませんし、干し野菜を作るには場所も足りません。」


 何もかもが足りないために、貴族の魔法でそれを補っているのが現状だ。すべての小領主バェルが農業生産改善に取り組んでいるわけでもないし、西方への供出分は確実に確保しなければならない。平民だけにやらせて結局足りないのでは話にもならない。


 そう説明すると顔色を変えたのはジョノミディスだ。驚きと共に申し訳なさそうに視線を落とす。


「我々のためにエーギノミーアはそこまでしていたのか?」

「ブェレンザッハや西方のためだけではございませんわ。とても良い訓練になるのです。一年やれば、魔力の量も制御もかなり向上するのですよ。」


 そう言うとジョノミディスは少し安心したように息を吐く。


「しかし、騎士や文官が総出で野菜の加工と言われても想像がつかぬな。」

「もし余裕があるならば、ピエナティゼ殿下にエーギノミーアにお越しいただいた方が早いのではないかと思います。」


 王族が視察に来るならばウォルハルトの婚約者である第三王子ピエナティゼが適任だろう。彼女が視察にくることくらいは、父だって織り込み済みだろう。互いに行き来しやすくするというのが婚約の目的に入っていないはずがない。


 私がそう言うとウォルハルトも同意し、国王は検討すると返事をした。

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