第247話 王族との会議

「さて、次期国王をどうするかは片付いたとして、問題は北方貴族にどう対処するかだ。」


 話の流れが全く分からない。そもそも、次期国王についての話し合いとはそんなに軽いものなのだろうか。以前にも北方貴族について意見を求められたが、予想していたよりもずっと状況が悪いと言うことなのだろうか。


 身構えていたら「其方そなたらに行ってくれという話ではない」と王太子ルグニエックが前置きをする。


「農業収穫の改善が進んでいないのは以前にも言っているが、どうにも要領を得ぬのだ。」


 特に大きな災害に見舞われたわけではないし、魔物の大規模な発生があったわけでもない。一朝一夕では上手くいかないとはいっても、私たちが色々と教えてから二年も三年も経っている。

 それなのに改善が上手くいかないのは、私たちが北方貴族に何か重大な隠し事をしているからではないか、という理由が上がっているらしい。


「ザクスネロ様のモレミア領は昨年以前より成果を上げているのですから、そちらに聞けば良いではないですか。私たちがそこまで圧力をかけられるはずなどございません。第一、何のためにそんなことをしなければならないのですか。」


 うんざりした様子で溜息を吐きつつも、ハネシテゼがきっぱりと否定する。

 当然である。ノイネント伯爵領は成功しているようだし、隠し事などあろうはずもない。


 仮にエーギノミーア公爵がモレミア侯爵に圧を掛けたのだとしたら、当然にデュオナール公爵やスズノエリア公爵が出てくるだろう。その時点で北の公爵たちには必要なことは伝わるはずだ。


 ブェレンザッハ公爵はウンガスへの対応が忙しく、そんなことをしている余裕などあるはずがない。何より、食料の支援を受けている側なのだ、大切な支援を減らす方向で圧を掛けるなど不合理にも程がある。


 おそらく、デュオナール公爵らが侯爵であるモレミアに頭を下げたくない、などと言っているのではないかと思う。ついでに言うならば、男爵家であるデォフナハに伺いを立てるなどするはずもない。


「つまらぬ自尊心が足を引っ張っている、そう言いたいのか?」

「そうですね。デォフナハの方式で食料生産が改善したならば、デォフナハの功績を認める以外にないでしょう。」


 確かな実績があるのに認めようとしなければ、子どもの我儘にも劣ると軽蔑されることになるだろう。それは公爵家当主の主張することではない。だから、拒否するならば実績を作らせない方向でやるしかない。


「それと、自分たちなりのやり方がある、そう主張なさっているのではありませんか?」

「よく知っているな。既にエーギノミーア公から聞いていたか?」

「いえ。エーギノミーアの小領主バェルにも、そのような主張をする者がいますので。」


 一体何を大切にしたいのかよく分からないが、とにかく、自分たちのやり方に固執するのだ。それでは足りないと言っているのに、領主一族が過大な要求をしていると認識しているのだから手が付けられない。


「それでは解決法が分からぬ。その小領主バェルは一体何を大切にしているのだ?」

「親や祖先の見出した方法らしいですよ。」


 横から意見を出してきたのはハネシテゼだ。デォフナハにもそのような小領主バェルや公吏がいたのだろうか。


「私は直接は存じていません。そのような者は全て罷免したと聞いています。」


 それを聞いて、国王も王太子もがっくりと項垂れる。さすがに公爵を小貴族のように扱うわけにはいかない。そんな程度のことでは爵位を落とすことすらできないだろう。


 領主にせよ、小領主バェルにせよ、なかなか足並みが揃わないのは今に始まったことではないが、あちらもこちらも面倒なことである。


 揃って大きく嘆息していると、しばらく沈黙を保っていたジョノミディスが口を開いた。


「ブェレンザッハとしては、北はウンガスの騒ぎに関わりたくないのだと認識しています。」

「それはどういう意味だ?」

「そのままです。放っておけばブェレンザッハは確実に力を落とします。彼らは我々が弱体化すれば良いとでも思っているのではありませんか?」


 ジョノミディスの声にはかなり棘がある。彼がそのような言い方をするのはとても珍しい。


 物理的距離が最も遠いエーギノミーアやデォフナハからは物資が大量に届いているのに、より近い北方からは何もこなければその様に感じるのは無理もないだろう。


「彼らはブェレンザッハが弱体化するだけで済むと思っているのでしょうか? エーギノミーアやブェレンザッハからの食糧支援もなかったら、ブェレンザッハは戦力維持できていないでしょう?」


 そう言うのは王太子夫人サリエフューネである。ブェレンザッハ出身である彼女は戦力や保有資産についてある程度は知っているはずで、ジョノミディスも大きく頷く。

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