8-1 完結







「今日は、配信したアプリが軒並み大ヒットしている企画部の小浦さんに取材させていただきます。小浦さんは、社内で企画部のエースと言われているそうですが、さぞかしたくさんの人気アプリを開発されたんでしょうか?」



「いや、僕だけの力じゃないですね。僕はそれこそ『ニャンまむ大バトル』とか、『ランナービート』とか手掛けましたけど、どれも企画部一丸となって取り組んだものです」



「すごーい!『ニャンまむ大バトル』、この前五百万ダウンロード突破してましたよね。さすが、企画部のエースです!」



「いや、それほどでも」



「最近では『メモリアルマップ』が伸びを見せていますよね。旅行者おすすめの観光地を写真で見られて、ユーザー同士交流できるっていう。旅好きの間では必須のアプリになっていますが、これも小浦さんが?」



「いや、それは・・・僕の、後輩の女性が考えたものです」



「女性なんですか。その方は、今も企画部に?」



「彼女は、ここにはいないんです」



「転職されたんですか?」

 


「いえ・・・・・・・旅をしています」















「はあ・・・・あっつい」


 じりじりと焼けるような暑さは、相変わらず体力を激しく奪っていく。それとは対照的に、きらきらと輝くグリーンブルーの海が、きらめいて見えた。汗をぬぐいながら、その綺麗な海を写真に収める。



「これで、最後だね」



 麻衣が携帯を開き、慣れた手つきでタップしていくと、すぐさま『メモリアルマップ』に写真がアップされた。

 アップされた写真には、瞬く間にコメントがつく。瞬から引き継いだ麻衣のアカウントは、フォロワーが二百万人をゆうに超えていた。



 麻衣は『メモリアルマップ』を本配信した後、旅に出たいという理由から退職を申し出た。

 突然の申し出に、曽根崎部長が詳細に麻衣の話を聞くと、部長は意外にも理解を示してくれた。麻衣と瞬の間柄に体を震わせるほど感動してくれたようだが、部長はその昔、バックパッカーに憧れていたらしい。


 曽根崎部長の理解により、麻衣は退職ではなく、休職という扱いになった。給料は出ないが、旅が終わる予定の今月末まで休職し、その後復職できる。先のことは考えずに行動していた麻衣にとって、その配慮はありがたかった。




 麻衣は、瞬の旅が途絶えたアフリカから旅をスタートさせ、南アメリカやアメリカ、カナダを周ってきた。終えてみると楽しかったが、旅中はそう一筋縄ではいかなかった。


 日本では考えられない治安の悪さに加え、騙そうとしてくる外国人は多い。アフリカや南米を初めて訪れた麻衣は、あまりの治安の悪さに帰りたくなることもしばしばあった。


 そんなときに勇気づけられたのが、アップした写真に寄せられたコメントだ。やはりユーザー同士の交流機能を付けてよかった、と小浦のアドバイスをありがたく思った。








 写真を撮ったビーチを後にすると、目の前には、麻衣と瞬が出会ったショッピングモールがあった。



 ここから、全てが始まった。



 旅をしてきた中で、どこで旅を終わりにしようかずっと考えてきた。瞬は日本から出発したのだから、日本で終わりにするものと初めは思っていた。


 けれど、麻衣と瞬はここで出会った。この、フィリピンのセブ島で。

 二人の出会いはここから始まったのだから、麻衣はセブ島を旅のゴールにしようと、日本行きの飛行機をキャンセルしてここにやって来た。



「だってこれは、私の旅でもあるもんね」


 

 この旅は、瞬の旅でもあり、麻衣の旅でもある。


 二人が出会った場所が、二人のゴールだ。




 携帯の画面の中の、ピンク色に染まっている世界地図を麻衣は眺めた。



「世界征服、してきたよ」



 まるで、桜が満開に咲き誇っているさまを瞬とともに眺めているようだった。



「びっくりしたでしょ。私が、世界を周るなんて」



 さすがですね、麻衣さん。


 瞬は、そう言ってくれる気がした。

 





















遅筆ですが、読んでいただきありがとうございました。

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旅するきみに恋をした。 Tsugi @izu202

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