2 スノー・ブラスト [全5話]

第01話】スノー・ブラスト

〈主な登場人物〉

紬/イトア・女性〉この物語の主人公

奏多・男性〉主人公に想いを寄せる少年

揺由・女性〉主人公の親友

──────────


──現実世界 (奏多視点の物語)


 僕と紬、揺由は冬休みを使ってダイヤモンドダストが見えるという場所へ行くという計画を立てた。細氷さいひょうとも呼ばれるらしい。よく晴れた早朝、氷点下十度以下の条件下で発生する。氷の結晶だ。


 異世界ではずっと初夏のような季節が一年を通して続いていた。四季という概念は無かった。でも一年を延長した僕達の現実世界の季節は今は冬──。


 始めに言いだしたのは揺由だった。実は揺由には最近彼氏が出来た。その彼氏と見に行く予定がドタキャンをされたらしく、こうして僕と紬を引きつれ、本人は半分ヤケになって行くことに。


 でも僕としては紬と学校以外で出かける事が初めての事で心中は弾んでいた。それに、揺由に彼氏が出来た事により僕に対する風当たりも心なしか弱くなっていた。それもありこうして僕も誘ってもらえた訳で。


 本音を言えばこうして紬と二人で遠出してみたかった。けれど、紬は今、基本的に引き籠り体質になっている。正直、揺由のような強引さは僕にはなくて助かったりもしている。僕の中では一人多いけれどデートなのだ。


 目的の場所までは電車を乗り換えそこから夜行列車で向かう計画を立てた。時刻は午後の六時過ぎ。僕は今、駅の入り口で二人を待っている。行き交う人達は、仕事から帰る人や塾から帰る学生だろうか。皆、温かい家路に向かっているようだ。


 そんな中で僕達の小さな旅が始まろうとしていた。僕達の住んでいる街に雪が降る事は滅多にない。僕は手袋をはめた手を口元にあて暖を取っていた。すると遠くから紬の姿が見えた。彼女は雪のような白いコートに膝丈のスカート、ブーツを履いている。


 初めて僕が紬の家に行った時の彼女の衝撃的な姿を見ているだけにその姿がやけに綺麗に見えてしまった。紬は僕と初めて出会った時から髪を伸ばしているようだった。出会った頃は肩より少し短めだった髪もだいぶ伸びていた。


 今日の紬は髪を下ろし頭にはコートと合わせた白いニット帽に毛糸で編まれた温かそうな手袋。淡いベージュのマフラーをぐるぐる巻きにして口元を隠している。遠目から見てもはっきり言って可愛い。このまま二人で逃避行でもしたいくらい。


 そんな事を考えていると紬も僕の姿に気が付き駆け寄る。


「奏多、来るの早いね。私が一番かと思ってた」


 白い吐息をまとい彼女は少し照れたような表情で僕に話しかけてくれた。僕は……ワクワクして三十分程前からここにいたなんて言えない。


「僕も少し前に来たばかりですよ」


 笑顔で誤魔化す。単純な紬はこの笑顔で簡単にだませてしまう。便利だけど……心が痛むし、ある意味心配。そこへ揺由の声が聞こえた。


「ごめん、ごめーん。てか二人とも時間きっちり守り過ぎ~~」

「揺由、電車の時間がありますからね。乗り遅れたら大変ですよ」

「はぁい。奏多様の言う通りですよ~」


 茶化してくる。揺由はこの季節だというのに丈の短い短パンに少し厚手の黒のタイツにブーツ姿。こちらの世界でも彼女は露出の多い服を好むようだ。


「さっ‼ 三人揃った事だし行こうか」


 僕達は事前に予約していた夜行列車の切符を取り出し確認すると改札を通り電車に乗り込む。


─────


 駅のホームには僕達のように列車を待つ人達がしっかりと防寒着を身に纏い電車が来るのを待っていた。僕達は自販機で飲み物を買うと、それを両手に包みその温かさを堪能してから喉を潤わせていた。程なくして列車到着のアナウンスが流れ、深緑の外装の電車が遠くから見えてきた。


 そして二回ほど電車を乗り継ぎやっと夜行列車に乗り込む。僕達が選んだ部屋は、一部屋に二段ベッドが二列ある四人が収容できる部屋だった。僕達のお小遣いで出せる精一杯の贅沢だった。交通費だけでも馬鹿にならない。


 当初この交通費で問題が起きた。この計画が出たのは出発から一ヶ月程前だった。僕と揺由が乗り気で話していると段々と紬の顔が青ざめていったのだ。すると涙をためて。


「……お金が足りない」、と。


 基本引き籠もり体質になっていた紬の収入源はお年玉と月のお小遣いのみ。それでもコツコツと貯めていたみたいなのだけれど……足りないと。一方で僕と揺由はバイトをしていた。揺由はお洒落なイメージがあったから美容代にお金をかけているのかなと予想出来たけど。


 僕は高校から一人暮らしをしている。家からの仕送りと自分のお小遣いは週三のバイトをしてまかなっている。実は学校とバイトと異世界生活とでなかなか忙しい毎日を送っていた。


 手をぷるぷると震わせすがるような視線で僕たちを見てくる紬を見て、いたたまれなくなった僕と揺由は、二人のカンパで紬の足りない分を補うことにした。紬は後から返すと言っていたけれど。僕の分は返さなくていいよと伝えている。


 異世界なら僕と紬の年齢なら成人。討伐に何回かいけばまかなえる金額だろう。そう思うと現実世界の僕達はまだまだ子供だ。親の援助なしでは生きてはいけないのだから。


 それにしても。僕は全く、こと紬のことになるとついつい甘やかしてしまう傾向がある。自分でもこんな一面があった事に驚く程だ。これを、首ったけになるというのだろうな。ましてや、まだ彼女にも出来ていないのに。


 そうして僕達の予約していた車両番号の部屋に到着した。


(続く)

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