第10話】-(嘘つき
〈主な登場人物〉
紬/イトア・女性〉この物語の主人公
奏多/カナタ〉主人公に想いを寄せる少年
フェテュール〉異世界の創造主
──────────
(紬/イトア視点 続き)
「──へっ⁉」
フェテュールが面食らった顔をする。
束の間の沈黙が続いた後、フェテュールが
「あははははははははっ‼」
顔を上げ口を大きく開き大爆笑をする。するとテーブルに頬杖を突き確信に触れる。カナタを指さし、その先をくるくると回す。
「そうなると、奏多くんは、もう後がないのよ。それでもいいのかしら?」
「はい。覚悟はもう決めました」
カナタは真っ直ぐな瞳でフェテュールの質問に答える。すると幼女の創造主はまた大笑いする。
「あはははははははははっ‼ お腹痛くなっちゃった」
女神を
「面白い提案だね。今までそんな事言ってきた人なんて居なかったよ。みんなそそくさと現実世界に帰っちゃうの」
この衝撃な告白に奏多の顔色は変わり、私は目を丸くした。
「ということはこれまでに僕達の様に異世界に行っていた人が?」
「そうだよ。これまでにも私は同じことを繰り返してきたんだ~ここにずっといると退屈なの。だから同じように退屈をしている人間を見つけるとぱぱっと契約までこぎつけて飛ばしてたの」
当たり前のようにさらっと
「そんでね、たまに紬ちゃんの様に異世界に行くと突然変異で姿が変わっちゃう子がいるの。だから紬ちゃんは他の人より魔力が高いんだよ?」
私の体質の事もさらっと明かしていく。
「面白そうだから、その条件飲んであげるよ。二人の命一つ分を対価にそれぞれの願いを叶えて、あ・げ・る。奏多くんのその
フェテュールはテーブルに両肘で頬杖を突き満足そうに満面の笑みを零す。私は口を
「私の目に狂いはなかったみたい。なんだか私もワクワクしちゃう」
フェテュールは、
そしてフェテュールはぬいぐるみの端から瞳を
「それなら私からの
そう言うとフェテュールは私達に微笑み、そして消えていった。
─────
その後、異世界に降り立った私は急いでカナタを探した。
彼は
─────
(回想)
あの屋上で、奏多は私の耳元でこう告げたのだ。
「もう一年、異世界にいませんか? あの軽い神様ならきっと面白がって話に乗ってくれると思うんです。その変わり、多分対価を要求してくると思います」
私は思わず奏多の顔を
「……対価⁉」
奏多は視線を下ろし。
「ちょっとこれは言いにくいですが……僕達の命を対価に交渉してみようと思うんです。これなら要求に対して対等に値すると思うんですよね」
「命……」
私はごくりと息を呑んだ。
「心配しないで下さい。紬は僕と二人の一年の延長を希望してください。僕は残りの命を紬に移行してもらうことを望みますから」
「──⁉……なに言ってるの⁉」
これは奏多がもし次に死に直面すると一直線に無の世界に行ってしまう事を意味する。
「これは僕から言いだした事です。それぐらいの覚悟はしないと。あとは紬の答えで決まりますよ」
ずるいよ……。
私は奏多から視線を外すと
「またそんな大事な事を私に託してくる……」
奏多の
そして私の両肩にそっと手を置いて力がこもる。
「そうですね、では紬が決められないのなら、僕が決めてもいいですか? 僕はこのまま進めますよ」
「……」
「実は僕、あの世界を気に入っているんですよ。この現実世界が退屈すぎて嫌になっていたんですよね。だからあの神が僕の前に現れた時どんなに興奮したことか。ほら、僕って器用貧乏というか」
あっさりと自信過剰な一面を表に出してくる。
でもフェテュールの言葉を思い出した。彼女は退屈な人間を選別していると。奏多はこんなに簡単に説明してくれているけれど何か深い理由があるのかもしれない、と私は思ってしまった。
私は
(回想終わり)
─────
私はカナタの元に近づくと
彼に手をかざすも彼の腕に触れることが出来ず。
「カナタ、本当に良かったの? 次に死んでしまったら……」
そんな心配を
「いいですよ。それに死ぬなんて
そんな簡単な事で自分の命を
私が冴えない表情を浮かべていると、カナタは片手を私の頬に触れてくる。私は急なその仕草に肩を揺らす。
そして
「それって私の為なの? 私がトゥエルと少しでも長く居られる……」
するとカナタは頬から私の口に人差し指を添えて静止した。
「それは分かりませんよ。紬はきっとこの一年で僕の元に帰ってきますよ」
「──⁉」
彼はそう自信満々に笑う。
「……嘘つき」
私は顔をくしゃっと
「嘘つき、嘘つきっ‼」
私はカナタに背を向けた。
私にカナタの
でも私の為という気持ちは
「……あり……がとう」
私は決してカナタに涙を見せてはならない。
涙が溢れて
我慢して肩が
涙がとめどなく──。
「好きな人の辛い顔は見たくないと前に伝えたじゃないですか。それにこのままトゥエルの勝ち逃げなんて許せませんよ」
カナタは私の頭にポンと手のひらを乗せた。
まるでそれは兄の様に、私を
私は口をぎゅっと
カナタは馬鹿だ。
あのまま現実世界に戻った方が彼にとっては有利なはずなのに。もし私がカナタの立場だったなら、今のカナタの行動には移せなかったと思う。
彼の綺麗で澄んだ心を呪う。
自分の
「それにあの幼女の神様から、僕にもリミット解除という素敵なプレゼントをもらいましたし。これで紬と対等の力を得ることが出来ました。これも大きな収穫です」
「……あれはそんな素敵なものじゃないよ」
私は
「紬、僕にとってこれはとても大きな事なんです。好きな人より強い力を得ることが出来るかもしれない。今度こそ紬を全力で守ることが出来ます」
「今はそんな事言ってる場合じゃないよっ‼」
私の気持ちに
「紬が教わった先生の所に僕も連れて行ってもらえませんか?」
勝手に話を進めていく。でもカナタがリミット解除出来ることは事実な訳で。私のように暴走させる訳にはいけない。
私は渋々、
「……わかったよ。フルーヴに伝えてみるね」
そしてカナタはまるで子供の様に無邪気な声で、恐らく笑顔で。
─────
「あと一年、暴れまくって後悔のないように生きて元の世界に帰りましょう、紬」
─────
カナタは私の肩から手を降ろし右手をぎゅっと握ってきた。私はもう後戻りできないことを実感すると左手で思いきり涙を
(第1部本文完結 次回カナタ視線へと続く)
──────────
ここまで読んで下さりありがとうございます。
これで第1部本文は完結となります。
エピローグとしてこの後カナタ視点のストーリーがあります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます