第04話】-(戦斧を操る死神の双子

〈主な登場人物〉

紬/イトア・女性〉この物語の主人公

その他ギルメン〉カナタ、トゥエル、ユラ

ラルジュ、ラメール〉双子の兄妹、戦斧を操る

──────────


(客観的視点 続き)


貴様きさまらがカルドからの使者か」


 そんな妹の姿など初めから無かったかのように無視し、ラルジュがイトア達に向けて尋ねる。


貴様きさま⁉ 随分ずいぶんな言い方ですわね。わたくしはトゥエル、こちらからイトアとユラですわ。あなた、まずは言葉遣いのお勉強からされたらいかがかしら」


 トゥエルがその不作法ぶさほうな物言いに皮肉を交え、怒りを抑えながら冷静さを装う。


「黙れ」


 ラルジュは、さらにトゥエルの怒りの沸点ふってんを上げていく。


「ごめーん。ラメールの準備が手間どっちゃって。だって女の子なんだもん」


 自分の事を名前で呼ぶラメールは、弁解べんかいするように舌を出し照れ笑いを浮かべた。その姿は年相応の無邪気な少女の仕草だった。


「月の様子からして始まったばかりだな」

 ラルジュはまたしても妹の行動を無視し、月をあおいだ。


「はい。恐らく一時間は余裕があるかと思います」

 冷静さを取り戻したカナタが状況を説明する。


「充分だ」


 するとラルジュが自分の武具を具現化していく。


 彼の身体と相当する程の大釜おおがまが具現化された。それは戦闘用に使われる戦斧せんぷと呼ばれる武具。人の顔以上の大きな釜刃は、月明りに反射しどの武具よりも煌々こうこうとしていた。ラルジュが具現化するのを見たラメールが少女の雰囲気から一変する。


「さっさと仕留めちゃおう」


 ラメールもラルジュと同等の戦斧せんぷを具現化していく。そして大の大人でも持ち上げるのが困難であろう重量の代物しろものを身軽に片手でひょいと持つと背中にかかげる。その姿を見ていたイトアが口に手を当て思わず声を漏らした。


「あんな大きな斧を片手で……⁉」


 双子は四人よりも前衛に立つと攻撃の体制に入る。その視線の先に二角獣バイコーン見据みすえる。横転していた二角獣バイコーンは体制を戻し後肢こうしを蹴りながら突進の準備をしていた。背中越しにラメールが告げる。


「あ、私達は勝手にやってるから。そっちもお互い邪魔しない程度ってことでおっけー?」


 トゥエルが肩眉を吊り上げ、目を細め腕を組む。

「遅れてきておいて、勝手ですわね」


 そこへカナタが「まあまあ」と手をかか仲裁ちゅうさいに入る。


「まあ、トゥエル、相手は子供ですから。分かりました。お互い干渉しない程度で仕留めていきましょう」


 トゥエルは横目でカナタを見ると口をつぐむ。その言葉を皮切りにラメールの顔色が、声色が、変わる。兄は無表情のままで、妹は瞳を輝かせ上唇を舌で舐める。


「ラルジュ、行くよっ‼」

「…………」


─────


 ラメールとラルジュは、二角獣バイコーンに向かい大人以上の速度で飛ぶように滑走かっそうしていく。そして二角獣バイコーンから数メートル前までくると瞬時に左右に分かれる。


 急に二手に分かれた獲物に二角獣バイコーンに一瞬の迷いのが出来た。そこへ、ラルジュが飛躍し二角獣バイコーンの胴体に向かって身体を回転しながらその勢いに任せて戦斧せんぷを振り上げ一撃をぶつける。二角獣バイコーンの胴体は鋼鉄のように強固であった。薄く表面に切り傷を作るのみ。


「…………っ⁉」

 その様子をみてラルジュの唇がゆがむ。


 二角獣バイコーンは首をひねると避けた大きな口を開け噛みつこうとしてきた。それを視界にとらえていたラルジュは二角獣バイコーン臀部でんぶに片足を着け踏み台にするとくるりと後転し間合いをとり後方に着地する。


 二角獣バイコーンがラルジュの方に気を取られている隙に対面にいたラメールの攻撃が始まる。彼女は飛躍するとフッとにやける。


「よそ見厳禁だよ。その角、よこせええええ‼」


 狂気に満ちた口調に変わると二角獣バイコーンに猛獣の様に食らいついていく。二角に向かって大きく背中をのけり自分の全体重をかけて戦斧せんぷを振り落とす。


 ガツンッと大きな衝撃音。


 衝撃から疾風しっぷうが吹き荒れた。彼女の長髪が、スカートが突風とっぷうにさらされる。戦斧せんぷの刃が角にわずかに食い込んだ。しかし頑丈な角は容易たやす二角獣バイコーンの頭から離れることはなかった。


 二角獣バイコーンの反撃が来る前に角に食い込んだ自分の戦斧せんぷを足場に後方に飛躍する。ラメールが二角獣バイコーンにらみつけた。そして愚痴を零す。


「何こいつ、かったぁ」


 その様子を見ていたユラとトゥエルが顔を見合わせた。


「トゥエル、あのつい戦斧せんぷってまさか……」

「ええ、死神の双子……まさかこんなところで」


 トゥエルの目が見開いている。そのこめかみにはうっすらと汗をにじませていた。その会話を聞いていたラメールが後方にいた二人の方へ振り向く。


「たしか~トゥエルだっけ? 私達の事知ってるんだ?」

「子供の相貌そうぼうで賞金を荒稼あらかせぎしている兄妹……この界隈かいわいでは有名ですわ」


 トゥエルはまるで異形いぎょうなものを見るような眼つきで二人の正体を暴く。


「ちっ、変な通り名つけやがって」

 ラルジュが吐き捨てるようにあからさまに顔をゆがめた。


「本当だよねぇ。弱いくせに冒険者名乗ってんじゃねえよって感じ」


 口元に人差し指をあてラメールが首をかしげ怪しく微笑む。そしてそのまま「うーむ」と思慮しりょする仕草をみせると。


「カナタは槍かぁ。それなら私とラルジュであいつを引きつけておくからその甲冑かっちゅうの人と二人で狙ってみてよ? あいつ外側硬いみたいだからこういう場合、内側がやわいのが定番でしょ」


 先ほどの狂気の顔つきから少女の顔に戻ったラメールがニコリとカナタに笑いかける。


「それでいいよね? ラルジュ」

「……問題ない」


 ラルジュの視線は依然二角獣バイコーンに向けられたまま言葉少なく返事を返す。


「子供に支持されるのはしゃくですけど、いい指摘ですわ。あなた達、小回りがききそうですし。まずは少し弱らせることにしましょう」


 トゥエルが指揮権を戻そうと話に割り込んでくる。


「んじゃ、そういうことで‼」


 ラメールは言葉を終わらせる前にまた疾風しっぷうのごとくラルジュと滑走かっそうしていった。


(続く)

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