第05話】-(双子の大技

〈主な登場人物〉

紬/イトア・女性〉この物語の主人公

ギルメン〉トゥエル、ユラ、カナタ

ラルジュ、ラメール〉共闘相手、双子の兄妹

──────────


(客観的視点 続き)


 そこに槍を片手で回しながらカナタがイトアに視線を向け合図を送る。


「イトア、僕達もそろそろいきましょうか?」

「うん」


 イトアが両手を胸に置き力強くうなずく。

 その様子に察しがついたトゥエルが口を挟む。


「イトア、もしや、あれを使うんですの⁉」


 驚愕きょうがくの表情を見せるトゥエルを余所よそにイトアは冷静だった。


「大丈夫。この時の為にこれまで練習してきたから」


 トゥエルに向かい真っ直ぐな瞳で。強い意志を見せる。そして首から下げていたペンダントを胸元から取り出した。ペンダントトップには小さな砂時計があしらわれていた。


「この砂時計が落ちるまでが私のリミットだから」


 そう告げると砂時計を反転させ詠唱を始めた。

 片手を天にかかげ解き放つ。



 ──『境界寸裂リミテーションスルー



 初見しょけんの詠唱にユラとトゥエルの視線が釘づけとなる。イトアの周囲に以前人食らいグール討伐の際と同じように光の柱が出現する。足元から吹きすさぶ風を受けながらイトアがたたずんでいる。


 イトアはしっかりとした顔つきでユラとトゥエルに視線を送ると少し口角を上げた。その姿を見た二人の顔から安堵あんどの色が伺えた。それを確認するとイトアは、カナタの方に視線を移すと片手を槍の穂先に向けた。


 カナタのハルベルトの穂先に風がまとわりつく。視認しにんできる程の小さな竜巻が起こっていた。


「ユラ、補助バフをお願いします」

「ほいよっ!」


 カナタの合図でユラは彼の足元に補助バフをかける。


「行きましょう! トゥエル‼」


 トゥエルがうなずくと舞が再開される。


 双子に続いてワルキューレとカナタが二角獣バイコーンに向かって滑走かっそうする。豪速のワルキューレと同等に速度を強化されたカナタの俊足が戦女神ワルキューレと並ぶ。


─────


 双子の攻撃は一撃重視型だった。


 強烈な一撃を繰り出すもその瞬間多くの隙を作る。片方が攻撃を出すとそれを補助するかのように、もう片方が攻撃を繰り出し、相手を翻弄ほんろうしていく。


 その身軽な小さな体で二角獣バイコーン前肢ぜんし、角、尾の攻撃をするりとかわしながら、身体全体を使って全身の体重をかけて渾身こんしんの一撃を何度も交互に繰り出していく。


 致命傷とまでいかなくとも二角獣バイコーンの身体にどんどん切り傷が増えていく。その真っ白な体毛が血に染まっていく。まるで月蝕げっしょくの月のように。


 皆既月蝕かいきげっしょくは刻々と時間をむしばんでいった。黄色い月が赤黒い赤銅色せきどうしょくに犯されていく。辺りがかすかに薄暗くなっていった。


 そこへラメールの合図が入る。


「ラルジュ、今ならやれるっ!」

「…………」


 ラルジュがうなずくと二角獣をあいだに挟む形で左右に別れる。二人の位置が真一文字まいちもんじになる。そして戦斧せんぷが振りかぶりの同じ構えを取る。二人の眼光がんこうがきらりと狂気を帯び無言の合図が交わされる。



 ──『閃耀一路エクラ・レッタ



「このカスがぁあああ‼」


 ラメールの蛮声ばんせいと共に左右から閃光せんこうのごとく大斧おおがまの刃が重なり合った。次の瞬間、二角獣バイコーンの片方の前肢ぜんしが宙を舞う。幻獣がその痛みから後肢こうしで立ち上がり上半身をのけり腹部があらわになった。


「カナタっ‼ 今‼」

「うおおおおおおおお‼」


 カナタが腹部に狙いを定め風をまとったハルベルトの槍を大きく振りかぶる。これまでかすり傷しか与えることが出来なかった皮膚に風をまとい威力が増した刃が穴をこじ開けるように食い込んでいく。そしてそれは体の中まで到達した。


 手応え有──。


 カナタの口角が少し上がる。瞬時に次の攻撃の体制に移る。カナタの背後にいたワルキューレがさらにその傷に追い打ちをかけるように切り開いた傷に向けて切っ先をたて皮膚をむしる。二角獣バイコーンが悲痛な声をとどろかせ身体を大きく揺らす。


「カナタ、やるじゃーん」


 長髪を乱暴に揺らし攻撃の手を休めることなくその様子を横目で視認しにんしながらラメールがにやける。そして疲れの色を見せないその顔は間髪入れず立て続けに大攻撃へと移ろうとしていた。


「ラルジュ、次は後ろ脚いくよっ!」

「…………」


 ラルジュは無言のまま、先ほどと同じようにラメールの動きを見ながら攻撃のタイミングを図っていく。そしてそのタイミングが訪れた時、戦斧せんぷを振りかぶる体制をとる。


 ラメールの罵声ばせいが勢いを増す。

「こんにゃろぉおおおおお‼」



 ──『閃耀一路エクラ・レッタ



 二撃目の大技。あっさりと二角獣バイコーンの片方の後肢こうしも宙に吹っ飛ばす。二角獣バイコーンがバランスを崩しその場に座り込んだ。


 幻獣の攻撃不可状態。


 この千載一遇せんざいいちぐうのチャンスにカナタとワルキューレがその二角を狙う。ワルキューレはグラディウスの刃先を、カナタはハルベルトの穂先で右角に切り込む。


 ガツンッツ‼


「何っ⁉」


 角に亀裂が生じた。しかし二人の力でもってしても角をへし折ることが出来ない。二人は後退し間合いを取る。


 その様子を見ていたラルジュの殺気さっきがカナタへと向かう。二角獣バイコーンへの攻撃を止めカナタの元に飛躍すると彼の首筋をいきなりつかみ取った。


 目を細め口をゆがませ軽侮けいぶする。

「二人がかりでこれか。本気の力でやれよ」


 カナタは膝をついた状態で首をへし折られる程の力で締め上げられていく。


「んぐ……」


 子供の握力とは思えない剛力ごうりき。その苦しみからカナタの顔が紅潮こうちょうし息が途切れていく。そこへラメールが静かにラルジュの背後に立った。


「ラルジュ、それ私のお気に入り。触わんじゃねええよ」


 戦斧せんぷの先端を兄の頭の後ろに向ける。兄同様、殺意さえ感じる鋭い眼光がんこうが兄を背後から刺し狙う。


「ちっ」


 顔を横に向け妹の姿を見ると兄は舌打ちし、振り飛ばす勢いでカナタから手を放した。


「げほっ……」


 カナタが後方によろめき、首に手を置き咳を零す。その首筋に指の跡がくっきりと残っていた。そこへすぐさまユラが駆け寄った。


「無茶苦茶ですわ」

ひでえことしやがる……カナタ大丈夫か⁉」


 味方に向けられたその行為に腹立たしさをあらわにするトゥエルが双子に軽蔑けいべつの視線を送った。ユラはカナタの状態を確認する。


 イトアはリミット解除中であることからその場を離れることが出来なかった。しかし、その様子はしっかりと見ていた。


「あの双子……」


 わずかに制御していたもう一人の自分が表に出てくる。

 しかしそれをぐっとこらえる。


(続く)

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