第03話】-(ラメールの一目惚れ

〈主な登場人物〉

紬/イトア・女性〉この物語の主人公

ギルメン〉トゥエル、ユラ、カナタ

ラルジュ、ラメール〉共闘相手、双子

──────────


(客観的視点 続き)



 ──『霹靂逸散トネール・ファレン



 天から舞い降りた竜(雷電)が牙をむき二角獣バイコーンの身体をとらえる。


 頭から綺麗に雷電らいでんを浴びた二角獣バイコーンは、一瞬身体を震わせ硬直する様子を見せるも、その身体にまとった電流がみるみると角に集結していく。まるで角が吸収していくかのように。二角の周りにはバリバリと電流のおびを走らせていた。


「「「「──っ⁉」」」」


 四人に戦慄せんりつが走った。


 二角獣バイコーンは電流を角にまとわせたまま、そのかぶりを大きく一振りした。瞬刻しゅんこく、解放された雷電らいでん二角獣バイコーンを中心に広範囲に渡りいくつもの雷の閃光せんこうの柱を次々とそびえ立たせていった。


「吸収した⁉ こっちに来るぞっ‼ 避けろっ‼」


 ユラやトゥエル、イトアのいる位置もその射程範囲に入っている。ユラは、ワルキューレの操作で身動きが取れないトゥエルの隣に行くと瞬時に防御壁プロテクションを具現化しおのれの身体ごと死守ししゅする。


「イトアっ! 危ないっ‼」


 一瞬の事で無防備だったイトアの身体をカナタが滑走かっそうし抱き寄せ雷柱から回避する。


「魔法を吸収し反射させる能力があるようですわね。イトア、放出系の魔法は控えなさい」


 トゥエルは二角獣バイコーンの特徴をつかみイトアに的確な指示を下す。カナタに身体を抱き上げられたイトアは、地面に足を着けながらうなずいた。


 その間にも二角獣バイコーンは、近距離に集まった四人の元へ再度真正面から滑走かっそうしてきていた。


 そこへカナタが槍を肩にかかげ前衛に立つ。

 カナタの鋭い眼光がんこう二角獣バイコーンの瞳がぶつかり合う。

 どちらも決して目をらさない。


 気に入らないと二角獣バイコーンの速度がカナタに向かいどんどんと加速する。それでもカナタの視線がれることはない。ついに二角が突き刺さる射程範囲に入ったとき、カナタが目を細めた。


 カナタはまるで闘牛士のように巨漢きょかんをすれすれのところで身体をのける。行き場を失った二角獣バイコーンの脚が地面を削りながら急停止する。そこへ背後に回ったワルキューレが豪速で二角獣バイコーン帯径おびみちにある心臓に向かい切っ先を向けた。


 敵に背中を向けたままの二角獣バイコーン後肢こうしの筋肉に筋が張った。次の瞬間、前肢ぜんしでその巨体を支え、月見草ごと根こそぎ土をまき散らし強烈な後ろ蹴りをお見舞いした。


 戦女神ワルキューレに気を取られている間にカナタは再び角をへし折ろうと槍を構える。ハルベルトをたずさえた槍を軽々と片手でくるりと一回転させると飛躍し両手に持ちかえ大きく振りかぶる。しかし二角獣バイコーン眼光がんこうがカナタの姿を見逃さなかった。


 ワルキューレを後肢こうしでおののかせると同時にカナタに頭を向けその二角を向け飛躍してきた。この時、槍の尺から考えても角はカナタの身体に到達する距離ではなかった。しかし、その角の先端がみるみると長く連なっていく。


「何っつ⁉」


 予想だにしなかった角の伸縮攻撃。

 カナタは目を見開き一瞬の回避のチャンスを逃す。


 ──回避不可能。


 その間にもカナタの身体は急降下し、上昇していく二角獣バイコーンの身体と共に角の先端は急速に伸びていく。その角の鋭い先端に吸い込まれるようにカナタの心臓が接近した刹那──。


「「「──⁉」」」


 キラリと月明りに反射して豪速の何かが滑空かっくうしてくる。それは見事に曇りもなく二角獣バイコーンの角に激突した。その矛先ほこさきをカナタの心臓から宙に変える。二角獣バイコーン悪声あくせいと共に二角獣バイコーンの頭が、胴が、豪快に揺れ地面に横転した。


─────


「おまたせ~」

「…………」


 間の抜けた幼い少女の声が緊迫した空気を攪拌かくはんした。四人がその声のぬしの姿を探す。そこには花畑の隅にそびえ立つ大きな岩の上に立つ二つの影。逆光で黒く見えた影が徐々にその姿をさらしていく。


「来るの、遅えぞっ! てか子供⁉」


 ユラを筆頭に四人はその相貌そうぼう瞠目どうもくした。


 一人は真っ赤な軍服のような服をまとった少女。


 きっちりとした上半身の服装とは相反して丈の短いスカートを風になびかせ、優美な太ももから足先が女性ですら釘づけにしていく。


 その柔肌やわはだには薄い生地をまとっている。純白の白髪は大きなリボンでポニーテール風に結いあげられ腰先まで垂らしていた。


 そしてもう一人は、反して少年だった。


 白いシャツに黒のベスト、黒のひざ丈の洋袴ズボン。首元にはスカーフをネクタイの様に結ってある。彼もまた少女同様白髪だった。


 深紅しんくの赤に、漆黒しっこくの黒。


 性別は違えどもその相貌そうぼうは瓜二つ。双子であることを示していた。何より四人よりもさらに年端としはも行かぬその相貌そうぼうに皆が驚愕きょうがくした。


「さっきの私が助けてあげたんだからいいじゃーん? じゃないと確実に殺られてたよ?」


 少女の軽侮けいぶした青い瞳が笑う。


「……くっ」

 こんな子供に助けられたなんて……と、カナタが唇を噛む。


「私はラメール、こっちが兄のラルジュ」

 ラメールと名乗った少女が簡単な自己紹介を済ます。


 すると少女の視線がピタリと止まった。


 岩からするりと身軽に飛躍したかと思うとカナタの前に着地する。両腕を後ろに回し首をかしげニコリと笑顔を向けるとカナタの顔をのぞき込んでくる。


「それよりお兄さん、お名前は?」

「え? カナタですけど……」

「かなた……」


 少女の瞳が大きく見開く。

 その瞳が一瞬潤む。



「きゃぁ‼ 名前まで格好いい! お兄ちゃん私カナタのお嫁さんになるっ‼」



 ラメールは、両手を頬にあて顔を赤くしながら興奮気味に兄の方に振り向いた。


 呆気あっけにとられるイトア達三人。


「──えっ⁉」

 面食らった顔をするカナタ。


 この状況下でさらにラメールは場の雰囲気を翻弄ほんろうしていった。


「お前、頭でもいかれたか?」

 そこへ顔色一つ変えず兄が冷たく突き放した。


「だって~どタイプなんだもん」


 カナタの顔を舐めるように下から上に見上げるラメール。今にも飛びつきそうな勢いに、カナタはその気迫に負け微動びどうだにせず。その顔は青ざめていった。


 決して視線を合わせてはいけないと本能が働いているようだった。目を泳がせている。


(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る