5 カナタの告白 [全3話]

第01話】とある日の奏多と揺由の会話

〈主な登場人物〉

紬/イトア・女性〉この物語の主人公

揺由・女性〉主人公の親友

奏多/カナタ〉主人公に想いを寄せる少年

──────────


――これは揺由と奏多のある日の会話。


「奏多、ありがとうね」


「えっどうしたんですか? 急に」


「あの子、昔の紬に戻ってきたからさ。奏多は知らないかもしれないけど、あの子高校に入ってから学校もサボり気味で。最近までひきこもり寸前までいってたんだよね」


「はぁ。少し事情は知っていました」


「家に閉じ籠るようになってさ。学校にきても、目は死んでるし……同じ場所にいるのに退屈そうにいつも遠くを見てる。見えない距離ってやつ? それが私たちの間にもあった」


「…………」


「本当はそんな子じゃなかったんだ。私は小学校からの腐れ縁だけど、あの子は本当は何でも一直線で……」


「恥ずかしがり屋でちょっと泣き虫で、それでいて変に大胆なところがありますよね」


「そうそう! ほっとけないっていうか」


「ですね。思わず構いたくなる……」


「でもね、あんな呑気そうに見えて学校生活はとても苦労してたよ。私らの年齢って不安定じゃん? 人間関係とか? なんかそんなのに振り回されることに疲れちゃったのかな。自分から人と距離を置くようになっていったよ。


気がついたら隣にあの子はいなかった。あの子の心に紬がいなくなっていくようで。すごく……辛かった。


私、難しいことはよく分かんないけど、紬は自分を無くすことで自分を守っていたのかな? そんな紬に私が出来たことはあの子の顔を見に行って、学校につれていくことしか出来なかった。無力だよね」


「そんなことはないと思いますよ」


「ううん。無力だよ。それでも決めてたことがあったんだ。あの子がどんな風になろうと私はずっと傍にいようって」


「揺由にとって紬はかけがえのない存在なんですね」


「当たり前でしょ? 奏多と会う少し前くらいからかな。嫌々学校にはくるけど、遠くにいた紬が私の顔を見てくれるようになったんだ。私の顔を見て笑ってくれるんだよ? 少しずつ……外の世界に出てくれるようになった」


「…………」


「あんた達がどういう経緯で出会ったのか詳しくは知らないけど、紬は奏多が現れてからなにか吹っ切れたかのように、憑き物が取れたかのように朗らかになっていってる。


テスト前になったら二人でそわそわしてさ、奏多んとこ行くじゃん? そんな何気ない毎日を楽しそうに過ごし始めてる。


何が紬にあったのか私にはわかんない。でも、紬の瞳に光が戻ってきて、私はそれが堪らなく嬉しい」


「そうなんですね。僕は今の紬しか知らないから……」


「まっ、ともかくっ、話し長くなっちゃったけど、私が一番言いたかったことは、紬をあんな暗い部屋せかいから連れ出してくれてありがとね奏多。これからもあの子の傍に出来ればいてほしい」


「はい。それは揺由と同じ想いです」


「だーけーどー、変な気は起こさないでよね。あの子、恋愛とか無縁でこれまで彼氏とか作ったこともないウブな子なんだから。奏多さぁ、時々怪しい時あるよね。紬にはまだ早い! 紬に変なことしたらぶっ飛ばすから(ニッコリ)」


「あはは……気をつけます」



彼氏を作ったことがない、という発言に敏感に反応した奏多だった。

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