第09話】-(私達は涙を零しながら笑いあった
〈主な登場人物〉
紬/イトア・女性〉この物語の主人公
カナタ・男性〉主人公に想いを寄せるギルメン
──────────
(紬/イトア視点 続き)
するとゆっくりとカナタの手に力がこもる。私は
「現実でもまた君と会えて僕はとても嬉しいです」
カナタは私から目を
「髪の色と長さは違いますけど、瞳の色や顔は僕が知っているイトアとそっくりですよ。というか、さっき廊下で初めて会った時、すぐに分かっていたんですけどね」
私の気持ちを
「後、確認の為に言いますが僕は君のことを外見(そとみ)で観ているわけではないですよ」
─────
その言葉にまた私の
全身に風が吹き抜けるこの感触。
私の視界が
世界が
私の瞳いっぱいに涙が
カナタの手から伝わる体温を感じた。
今の私を
─────
すると
何故かカナタが今、目の前にいることにとてつもない
私は瞬きするのを忘れ、自然と一粒、二粒と涙がこぼれ。それは私の頬に、そしてカナタの手につたう。カナタは黙ったまま優しく微笑んでくれた。
カナタの親指が次から次にこぼれる私の涙をそっと
「…………」
「……うん」
カナタは静かに頷いた。
「僕の前では我慢しないで下さい」
カナタの言葉に肩が震えた。
私は瞳を閉じ大粒の涙を零していく。
私が異世界に行くようになってからすぐに出会い一番長く時間を共にしたカナタ。彼の存在は私の中でどんどん大きくなっていく。そこへ追い打ちを掛けてくるように私の心の中を
大丈夫だよ、と。
手を握りしめられているように感じる。
私がようやく
「帰って来れて……よかった。こんな私を……」
そう言いかけた時、私の瞳に飛び込んできたその景色に私の心は震えた。
─────
カナタは
「あの時、守りきれなくてごめんな……でも僕の生きる世界に戻ってきてくれてありがとう」と、涙を
─────
この時、私が死から目を覚ましエテルに抱きしめられた時、肩越しから見えたカナタの顔が浮かんだ。
胸が締め付けられて苦しい。
私は……カナタに抱きしめられたかったのだろうか。でも彼は私の為に涙を流してくれている事だけは事実。そして私に「ありがとう」と言う。
「何で、カナタまで泣いてるの?」
私は涙を
「……だって」
子供のように言い訳を流すカナタ。
私もカナタの頬に触れ涙をそっと
私は男性が涙を流す姿を初めてみた。それに、今まで敬語だったカナタのこの
私の
ただ
私とカナタは
─────
「これからは、こちらの世界でも一緒ですね」
カナタは顔を上げ涙で
「ところでこちらではなんという名前なんですか? イトアではないと思うのですが……」
「……つむぎ」
私は
「イトアの糸とつむぎですか。素敵な名前ですね。よろしくお願いします、つむぎ。僕はこちらの世界でもかなたです」
「……よろしくね、かなた」
私は赤い瞳のまま精いっぱいの笑顔を見せた。
★ ★ ★
(カナタ視点)
僕は抱きしめてこのまま隠してしまいたかった。
本当に、本当に
つむぎを僕に返してくれてありがとう。
今だけは神様に感謝するよ。
★ ★ ★
(紬/イトア視点)
気が付かなかっただけですれ違ったこともあったかもしれない。奏多は、現実の世界でも優しくて、予想はしていたけれど成績もよかった。異世界の座学をあんなに早く理解することができたことも納得できる。
それから私はすぐに、奏多に揺由を紹介した。思った通り、奏多はとても驚いていた。思わず「紋章はありますか?」なんて言おうとしていたくらい。揺由は現実世界でもあの性格だったので奏多もすぐに打ち解けることができた。
私たち三人は一緒に下校をしたり、時には揺由のぱしりとなってカナタが売店のパンを買いに走らされたり。テスト前になると決まって私と揺由は奏多の元に押しかけては勉強を教えてもらったり。
でも揺由がいないところで奏多は「テスト期間中は、異世界禁止です」とこっそりと私に釘をさしてきたり、と。
─────
死を迎えてからこの当たり前の日常が一瞬一瞬の
でも、ただ一つ困ったことが。
異世界にいる時なのに奏多は二人きりになると私のことを「つむぎ」と呼ぶようになった。私が口に指をたて合図を送ると決まってイタズラが成功したかのように無邪気に笑ってくる。
私は
(灰雪(はいゆき)[ドラゴン討伐編] 終わり)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます