第02話】君に恋してしまったようです
〈主な登場人物〉
紬/イトア・女性〉この物語の主人公
奏多/カナタ〉主人公に想いを寄せる少年
揺由・女性〉主人公の親友
──────────
「うーん、気持ちいい」
私は学校の屋上で背伸びをしながら空を
時間は下校時刻。この時間は屋上に誰もいないことが多いことから私はたまに一人で来ては気分転換をしている。ここから見る夕陽がとても綺麗だから。
以前の私なら絶対に来なかった場所。
異世界で沢山の自然や美しい景色を観た私は、現実世界にもそんな場所があることをすっかり忘れてしまっていた。
ある日、なんとなく空を見上げた時、切ないくらい
―――――
青い空に地平線に
その
雲も街も
そして程なくして夜がやってくる。
山に沈むまでの束の間にしか見えないこの儚さに魅了された。
―――――
私は屋上のフェンスに手をかけ髪とスカートの
「紬、帰らないんですか?」
「あ、奏多。うん、ここから見える夕陽が綺麗だからたまに見にきてるんだっ」
「引きこもり予備軍とは思えない言葉ですね、いい
「ははは……」
声の主は奏多だった。奏多は微笑みながら、私は空笑いで返す。奏多はこれから帰るところだったのだろうか。でも鞄は持っていない。奏多は私の隣に並んでフェンス越しに景色を眺めていた。夕焼けに当たって奏多の白いシャツがほのかに
「本当に綺麗ですね」
「でしょ? 空の色が、雲の色がとても好きなの」
私は空を
そんな私にカナタは、唐突に尋ねてきた。
「紬は、学校が、現実世界が、外の世界が嫌いですか?」
予想外の質問に私は口を
「家に閉じ
「異世界ではあんなに自由に生きているのに不思議ですね」
「そうかも。こっちの世界では自分に自信が持てないから」
私は心に
だって、ひいき目に見ても異世界の私の方が可愛いし。魔法も使えるし。そんな私の気持ちを悟ったかのように奏多は話を続けた。
「きっと紬は、色んな落し物をしてしまったんですね」
「落し物?」
「そうです。自信とか勇気とか、色々と。こうして現実世界での紬を見ていたら僕には異世界でそれを探しているように見えます」
「…………」
何も言い返せない。
私は握っていたフェンスに力がこもった。その通りだと、思ったから。いや、言われて初めて実感したのかもしれない。自分の弱い所をえぐり取られたこの感覚。
私の視界から景色が消えていくのが分かった。暗い気持ちになりかけている私に向かって、さらに奏多は言葉を
「僕は、こちらの世界でも紬が落としていった
「かけら……」
カナタは
―――――
「あちらの世界で出来ているんですから、こちらの世界でも出来ますよ。……う―んと、あと僕が伝えたかったことは……」
急に奏多が何か言いたそうに下を向いて口ごもる。
「……僕も手伝いますから。えっと……僕と揺由もいますし」
隣を見ると夕陽に当たって奏多の頬が赤く見えた。ん? 何だか奏多の様子がおかしい。私は「はて?」と思いながら奏多の様子を伺った。
「いや……、僕が紬の手を引いていきますから、こちらの世界でも紬には輝いてほしいんです」
「なんか現実世界の私が曇ってるように聞こえるんですけど。まぁ合ってるけど」
腰に手を置き薄目で私は奏多にムスッとした顔を向けると彼は少し困った顔で苦笑する。けれど、これは私の照れ隠し。内心は、微笑みたいくらい嬉しかった。
奏多は一緒に歩もうと言ってくれていること。
私の弱い部分を受け止めようとしてくれていること。
それが痛いくらいに伝わってきたからだ。なんでもお見通しなんだなと奏多に気が付かれないようにこっそりと、私も苦笑した。
「ごめんなさい。あー、こんな事が言いたいんじゃないのに」
そんな私の変化に気づくこともなく、奏多は罰が悪そうにうなじに片手を置き何故か混乱している。空を見上げてもどかしい顔を浮かべている。こんな姿珍しい。どうしたものかなと思い私は奏多の顔を
私と瞳が合うと一瞬、
「正直に言います。えっと……紬と一緒にいると、頑張ってる姿をみたら応援したくなるし悲しんでいる時は支えたくなる。その
そして奏多は私の方を向き照れくさそうな顔で笑顔を作りながら。
――「どうやら僕は君に恋をしてしまったようです」
(続く)
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