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「昨日、先生のところに教頭先生からメッセージが届きました」
喉に痰でもつまったのか、先生は数回咳払いをしました。
「明日で授業を終らせるように、という指示が教育委員会から校長のところに来た、という話でした」
先生は、少しの間考えこむような表情をしていましたが、ややあって、口を開きました。
「その一言を伝えるためだけに、この島からはるか遠くの町にある、今はもう廃校になった小学校の職員室で、教頭先生が机に座ってキーボードを叩いている。そして、校長先生は決定された結果の通知を受け取るために教育委員会に出向いている。確かにいささか大仰にすぎるかもしれません」
キムラ先生は、マコトくんに視線を戻しました。
「そこで、先生も、今日で授業を終らせよう、と決心しました」
それから、ゆっくりと微笑みかけました。
「この最後の教室で、マコトくんにとっても、教師である私にとっても、この国にとっても最後となる授業です。でも、その前に……」
今までにマコトくんに見せたことのないような満面の笑みです。
「マコトくんにお礼を言わせてください」
お礼? 唐突な言葉に、マコトくんはまた体を硬くしました。
「ここまでよく健やかに育ってくれました。重い病を患うこともなく、事故も起こさずに、野山を駆けずり回り、たくさんの人や動物や植物と出会って……。でも、学校の勉強だけはあまり熱心ではなかったようですね。それだけが少し残念です」
確かに遅刻ばかりだったと、マコトくんは後悔しました。
「それでも毎日学校に来て、先生の授業を受けてくれて、今まで本当にありがとう」
先生の瞳から大粒の涙がぽろぽろ零れ落ちました。
すると、大人たちが飛び出してきてカメラを向けてきました。
先生はあわててハンカチで目を押さえました。
「こっちにも、こっちにもください!」
先生の真横でカメラを構えていたひげだらけの大人が叫んでいます。
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