魔法少女「Re*start」編

第20話 激走!真っ向勝負!!

『今ね、公園とかで遊んでると、リザードマンがここはオレたちのナワバリだー、って言って遊ばせてくれなくて困ってるんだよ。相手は年上だし、怖いお兄さんたちと繋がってるみたいだし……だから最近遊び場がなくなってて、みんな困ってるの。まさ姉がそれを助けてくれたら――きっとみんな、まさ姉のことを認めてくれるよ!』


 子供をターゲットにするのも、まさきは賛成だった。

 魔法少女の専売特許は子供たちの心を掴むことである……これまでの経験こそが自信だ。

 ちゃんと、実績もあるのだ。


 子供たちを味方につけることができれば、大人たちもまさきの話を聞かざるを得ないとも企んでいた。

 人質を使った脅迫……になってしまっているが、こっちも必死だ、やり方を選んでもいられない。


 そして――サヘラに手伝ってもらった上で、だ。


 リザードマンに公園から追い出されそうになっていた子供たちを庇ったら、後ろから石を投げられた。


『街から! 出ていけっ!』

『わたしたちの前にでてこないでよ!』


 中には、

『お父さんを、返してよぉ!』

 と、悲しみと憎しみを向けてくる子もいた。


『ぼくんちは、おまえらに燃やされたんだっっ!』


 投げられた石が、まさきの額にぶつかった。


 混ざっていたサヘラは予定とは違う展開に、まさきを庇おうとしてくれたらしい。

 だが葛藤の末に、伸ばしかけた手はゆっくりと下りてしまった。


 サヘラにはサヘラの人間関係がある。

 ここでまさきを庇えば、彼女は一人になってしまう――。

 だからまさきを見捨てた彼女の気持ちも分からないでもない。


 同調して石を投げてこなかっただけ、サヘラにも負い目があるのだろう。


 まさきがその場にいても収拾がつけられない。

 逆に、さらに過激になっていくだろう。

 咄嗟に公園を出たのは、間違った選択ではなかったはずだ。


「……魔女」


 原因である彼女たち……主に二人の顔を思い浮かべる。


 魔女とは種族であり、出会った二人以外にもいるのだから責任を全て二人に押しつけるのは間違っているだろうが、それでも、呟かずにはいられなかった。


「一体、この街になにをしたって言うの……?」


 すると、視界にふわりと落ちてきた羽が一枚。


 ふと上空を見上げる。


 ハーピーの群れがいた。


「ッ!?」


『見つけたぞ、魔女!!』


 まさきのエルフの力は、地面と接しているものを把握する。

 荷重がある建物や、地に足つけた生物を感知できる。

 だから逆に、空中を飛ぶものは感知できない欠点があった。


「逃がすかッッ」


 咄嗟に立ち上がってその場を離れるも、上空からの目と共に居場所が仲間に伝達され、地上を走る亜人たちがまさきの元へ集まってきていた。


 曲がり角を曲がった瞬間、ケンタウロスと正面衝突しそうになり反射的に身を屈める。

 ケンタウロスの方も驚き、障害物を跨ぐ癖なのか、まさきの体を飛び越えてくれなければ今頃まさきの体が数百キロにも届く重さによって踏み潰されていただろう。


 馬の足音がまさきを囲む。

 上空一面をハーピーが覆っており、四方八方をケンタウロスがその体を互いに近づけさせて壁を作っている。


 続々と、他の亜人が集まってきた。


 集団の筆頭は、狼男だ。



「追いかけっこもこれで終わりだ、魔女」

「……だからっ、わたしは魔女じゃないって、何度言ったら……ッ」


「確かにお前自身は奇妙な術も使わない、俺たちに危害を加えたりもしていない。現時点ではな……だが危険因子なことには変わりないんだ。お前個人が友好的であっても魔女であるというだけで和解は不可能だ。それだけ、俺たちが受けた傷は大きい……。死者を返せと言ったところでお前らにはどうすることもできないだろ。遙か昔のことでもない、つい数ヶ月前に、この街は業火に包まれ、多くの被害が出た。魔女の血を引いてるってだけで殺したいほど憎んでる奴は、この街には数え切れないほどいるんだ」


 彼の言葉に同調するように、周囲の視線にいっそう強く敵意が乗った。


「やってもいない罪を、同じ種族だからって代わりに償えって……?」

「そういうことだな。同じ種族なら、これは連帯責任だ」


 連帯責任、という言葉にまさきが歯噛みする。

 魔女の無責任な行動よりはマシかもしれないが、まさきもチームのみんなを無責任な独断行動のせいで巻き込んでいる。

 連帯責任の末に、今に至っていると言えた。


 あの時、行動したことに今更後悔もないし、助けなければサヘラの命はなかったことを思えば後悔するのも違う気がする。

 そうは言っても連帯責任によってチームを困らせたまさきが魔女の連帯責任に苦しめられるのは、道理に適っているのかもしれない。


 まさきが肩の力を抜いた。

 この状況にまで追い詰められてしまえば、もうどうすることもできない。


 諦めもつく。

 一か八か、挑む方がもっと酷いことになるだろう。


「……どうするつもりなの? どうせ信じないでしょうけど……わたしは魔女じゃないから、脅したってなにも出ないわよ」


「どうだかな。お前を縛り付けてビルの屋上にでも立てておけば、お前を助けようと仲間の魔女が現れるかもしれないな……」


 万一にもあり得ないが、もしも現れたとしたら。


「……結局、あなたたちは、魔女をどうしたいのかしら?」


「復讐だ、と言いたいところだが……数キロにも及ぶ街を燃やすような相手にケンカを売る度胸はこっちにはないんだ。子供も、家族もいるしな。俺たちの要求は一つだ。これ以上、平和に暮らす俺たちの生活を、壊さないでくれ」


「…………」

「難しいことを言ってるか? 俺たちは、幸せに暮らせればそれでいいんだ」


 好戦的な彼らが求めているのは、意外にも魔女との対話だ。


 口では攻撃的な言葉を吐きながらも、平和的な解決を望んでいる。

 憎しみ、復讐を抱きながらも衝動を抑えて、魔女との和解がしたいだけだった。


 魔女を大きな組織として考えた場合、長い目で見れば敵対は不利益になると判断し、先に自分たちが折れる判断を下した……理性的に見えても、魔女の力を脅威に思っている証拠だ。


 怯えていると表に出しては魔女に弱点を晒すようなものだ。

 だから反抗の意思を見せながらも、危害を加えたりはせず、互いの落としどころを見つけようとしている。


 亜人街の住人は、今更難しい部分はあるかもしれないが、それでも後腐れ無い関係性を保てるように行動している。


 彼ら同士でも、何度も衝突はあったのだろう。

 感情のままに今、復讐を果たせば近い将来、絶対に魔女たちは亜人街を襲撃する。

 短い間、自分は幸せになれるかもしれないが、子供たちの代は分からない。


 人の親が集まれば、意見が固まるのも早かった。


「とにかくだ、お前を餌に、別の魔女を呼ぶ。術を使えないところを見ると、弟子かなんかなんだろ。そっちの事情は分からないが、弟子が危険な目に遭ってて見捨てる師匠もいないはずだ」


「いや、だからこないわよ。そもそもわたしは、魔女じゃ――」



 その時だった。


 まるで津波が街を飲み込むように――真っ赤な炎がまさきの視界を埋めた。


「――――」

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