第10話 問題と謹慎
「笑っちまうよ、そんな嘘吐きが世間に認められて、オレたちは嫌悪されてる。そろそろいい加減に、オレたちにもスポットライトが当たってもいいと思ってよ」
「……だとしても、このやり方なの……?」
他に方法はいくらでもあるはず。
「確かにな。だが、不満があると伝えるには、これが一番手っ取り早い」
まさきも言い返せなかった。
正式な手順を踏めばメッセージの行ったり来たりでレスポンスの分、時間がかかる。
だが、こうして反逆の意思を見せれば一発だ。
それに交渉の場を設けず、暴れることもできる、という脅しも同時に相手へ伝えられる。
結果が早く欲しいのなら、これ以上はないってくらい、乱暴でも深く切り込んだ一手だ。
「で、でも!」
「嫌なら止めてみろ。てめえも、魔法少女だろ?」
「え?」
と抱えていたセーラー少女から驚きの声が出る。
「てめえが憧れた魔法少女なら、この場この時、一体どうすんだ?」
「…………」
「考えてる時間はねえぞ、クソガキッッ」
――高原さらんならどうするか。
そんなの。
「……この子を助けて、怪人の暴走を止めるに、決まってる!!」
ずっと見てきた憧れの人。
やがて、いなくなってしまうチームメイトであり、師匠だ。
彼女がいなくなることで、彼女のやり方が消えてなくなってしまうのは許せない。
なら、まさきのやるべきことは、一つしかない。
二時間後。
急遽、事務所に呼び出された新沼チーム、三人のメンバーと、大問題を引き起こしたまさきが合流する。
問題に対して、連帯責任。
まさき一人だけの処罰ではなく、それはチーム全体にまで及んだ。
「…………やってくれたわね……っ!」
人気絶頂中のラッキーちゃんと呼ばれている魔法少女が、マネージャーを引き連れて事務所に追いついたようだ。
舞台中に事故が起き、台本は滅茶苦茶、関係者の多くに迷惑がかかったためにその後のフォローに追われて、集まるのが遅れてしまったのだ。
怪我を負った怪人役のリザードマンの具合も確認しなければならなかった。
「で、あいつは大丈夫だったの?」
「あ、それは大丈夫。お医者さんも全治一週間くらいだってさ――って、あんたのせいでしょうが!!」
聞かれたことに素直に答えるところは根っこのところでは後輩だからか。
実力主義とは言え……年功序列が絶滅したわけではない。
自然と、多少の気を遣ってしまうのも人の性だ。
「少しいいかい。まだ把握していなくてね。……一体まさきはなにをしたんだい?」
珍しく、さらんが積極的に会話に混ざった。
「台本に名前が載ってないのに、勝手に舞台に上がって、場を掻き回したのよ。その結果
……怪人役の男性一人が、怪我を負って、今病院にいるの」
今でこそ意識を取り戻し、全治一週間と診断が出ているが、当初は衝突事故による意識不明の状態だった。
街路から飛び出したリザードマンと、戦闘中だった魔法少女が不意に衝突――下にいたリザードマンの頭部に、空中にいた魔法少女の落下速度と体重が増してのしかかり、彼は脳しんとうを起こしたのだ。
舞台を中断するわけにもいかず、リザードマンは放置され、遅れて回収された。
可能性の話だが、もしも救出があと少しでも遅れていたら、意識を取り戻していなかったかもしれない……そういうレベルの事故だった。
原因はなんだった? と元を辿れば、その先にまさきがいたと判明した。
彼女とリザードマンが、繁華街で会話をしている光景が、映像として残っている。
そうは言っても元々バックヤード扱いになっている道だ、カメラの向きは合っておらず運良く画角の中に映り込んだだけだ。
音も満足に拾えていない。
会話内容も、当然そこでなにが起こっていたのかも映像を見るだけでは全ては分からない。
実際に、当人たちから聞くしかないのだが……、
「本当のことを言うとも限らないでしょ……!」
「信用がないみたいね」
「あたしの舞台を台無しにしておいて……! 信用もなにも……っ!」
「舞台は失敗? 子供たちの声援からして、ちゃんと役目は果たせたみたいだし、別にいいじゃない」
「そうじゃなくて……一人の怪我人が出てるって言ってんの!」
「……わたしばっかり責められてるけど、向こうも悪いかもってどうして思わないのかしらね……」
「日頃のおこないでしょうねえ!」
それを言われてしまうと、問題行動が多いまさきはぐうの音も出なくなってしまう。
そもそも、舞台に勝手に上がった時点で、まさきの行動は既におかしいのだ。
なにか問題が起こった時に、まず疑われる立場にいる。
悪者扱いされることは予想済みである。
……こうして大問題に発展し、チームのみんなに迷惑をかけることも、天秤にかけた上で、まさきは選択したのだ。
救いを求める女の子を、助けるために動くことを。
「よお、外にまで聞こえてたぜ。きゃーきゃーとうるせえよ、ガキ共」
病院送りにされたリザードマンが、予定外で、事務所に顔を出した。
「あ……っ、お、お疲れ様です! あの、大丈夫なんですか……?」
ラッキーが駆け寄った。
事故の衝撃で骨折はしていないものの、動きに精細を欠くくらいの支障は出てしまうらしい……こんな状態では、次の出番は諦めるしかない。
「できねえこともねえが、大事を取ってだ。無理をして周りに迷惑をかけて、別の誰かにまで怪我をさせたらまずいからな」
「……すみ、ません……」
「お前が謝ることじゃねえだろ」
可愛らしい顔の人気魔法少女が、キッとまさきを睨んだ。
謝れ、と言いたいのはよく分かった。
この場を収めるのなら――表面上、しこりを残さないためにも謝るべきだったが、しかし、まさきにその言葉は出せなかった。
たとえそれで自分と仲間への罪がなくならずとも軽くなるのだとしても、譲れない一言である。
だって、事故ではない。
リザードマンを襲った魔法少女との衝突は、まさきの意図的な、攻撃なのだから。
「謝らないわよ」
「ちょっとッ!」
「あなたなら、どうしてなのか、分かるでしょう……!」
まさきとリザードマンの視線がぶつかり合う。
「あーそうかい。なら、言わせてもらうが――この責任はお前らが取るんだよな? なら注意で終わらせるわけにはいかねえ。かと言って、オレに対して罪滅ぼしでまとわりつかれても面倒だ。……だったら、お前らにとって致命的な罰を与えようか」
数が多い魔法少女たちにとって、自分以外の代わりはいくらでもいる。
そして、たった一つのチャンスから一気にブレイクする少女がいれば、たった一回の欠番で新しい魔法少女に喰われて、そのまま人気が低迷する少女もいる。
たとえ一日だろうとも、誰の目にも映らないというのは、致命的なのだ。
「謹慎だ。期間は任せるが……最低でも二週間程度はしてもらわねえとな」
「二週間……っ」
「文句あんのか? だったら、自分が間違っていたと認めるか?」
「あり得ないわね」
「決まりだな」
「なにが――決まりだ、だ! こっちは全然納得なんか――むぐっ!?」
今まで黙っていたが、さすがに我慢の限界に達したみにいが椅子を蹴り飛ばして不満を爆発させた。
瞬間で反応したりりなの羽交い締めで、なんとかみにいの暴走は阻止できたようだ。
まさきの肩を、ぽんっと叩き、さらんが背後から声をかける。
「私たちのことはいい……自分のことを、よく考えるんだよ、まさき」
すると、くいっくいっ、とさらんを指の動きで呼ぶ、リザードマンが視線の先にいた。
さらんが近づくと、リザードマンも同じく近づいてきて――すれ違いざまに数度、言葉を交わし、リザードマンは勝手に抜け出してきた病院へ戻っていく。
彼の背に向けて、さらんが呟いた。
「……すまないね、無茶をさせた――、ありがとう……」
その後。
正式に、新沼チームの二週間の謹慎が決定した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます