第8話 お客さんと店員さん
「まゆちゃん、まゆちゃん、ちょっと、話聞いてる?」
「え、あ、え、あ、ごめんなさい」
「どうしたの?」
はなみやに好き。と言われた翌日のバイトで私は全くバイトに集中できていなかった。バイトだけでなく、大学の授業も全く集中できていなかったのだが……
「もしかして、後輩くんと何かあったのかなぁ?」
バイトの先輩がニヤニヤした表情で私に尋ねる。
「え、え、え、いや…」
「やっぱり何かあったんだ〜後輩くんがいつもなら来る時間なのに今日来てないからおかしいなぁ〜って思ったんだよね。まゆちゃんも全く集中できてないみたいだし」
「………告白されました」
「まじか」
私が頷くと先輩はやっぱりあの子まゆちゃんのこと好きだったんだ〜とニヤニヤしながら呟いていた。
あれから数日…
私ははなみやと会っていない。
あの日……私は何も答えなかった。答えられなかった。そのことを私は今でも後悔している。
「まゆ先輩」
本棚の整理をしていると聞き慣れた声が聞こえてきた。私が振り返るとはなみやがいた。
「え、あ、え、はなみや…ひ、久しぶり…だね……」
「お久しぶりです」
………お互い無言のまま少し時間が経過した。はなみやは手や足が震えている。勇気を出して私に声をかけてくれたのだろう。
「あ、あの…まゆ先輩のおすすめの本、全部読み終わりました。その…どれも面白かったので…また、おすすめの本教えてください」
「わかった」
まゆ先輩は笑顔で僕に答えてくれた。まゆ先輩に案内されて小説が並んでいる本棚に移動する。
「はなみや、この本…読んだんだよね?」
まゆ先輩は本棚から一冊の本を取り出して僕に尋ねる。まゆ先輩がこの前紹介してくれた本だった。
「はい」
「じゃあ、この本の結末わかるよね?」
「えっと…同じ部活の先輩と後輩がいろいろないざこざを乗り越えて結ばれる話ですよね」
まゆ先輩が紹介してくれた本の中で1番好きだった本がこれだ。この本を読んでいて気づいたら泣いていた。僕が…まゆ先輩のことを好き。と言う状況と主人公を重ねてしまっていたからだ。
同じ部活なのに勇気が出せず、好きな人と関われない主人公、何かしらの理由をつけて、少しの間好きな人と関われるだけで幸せを感じる主人公、そして、精一杯勇気を振り絞って好きな人の距離が縮まり、そして、告白をする主人公……
「この前の返事…まゆはこの本のヒロインみたいになりたい」
「え…それって……」
「まゆもはなみやのこと好き。あの時、去年、はなみやが思い詰めていた姿を見て気になって…一緒に作業したりして楽しくて……それから少し気になっていたけど、話したりできなくて……はなみやが本屋さんに来てくれるようになってすごく嬉しくて…はなみやがバイト中に話してくれていろいろ話したりできて…嬉しかったの。それで、レポート一緒にやって…その後、告白されて…びっくりして何も言えずに逃げちゃったけど…まゆははなみやのこと好き。だよ…」
気づいたら泣いていた。
ずっと…好きだった人に…好きって言ってもらえて……
あの日、勇気を振り絞って…まゆ先輩に声をかけることができて…よかった。
あの時、一歩踏み出してよかった。
「まゆでよかったら付き合ってください」
「絶対に幸せにします」
こうして、僕とまゆ先輩は結ばれた。
この書店でまゆ先輩と偶然出会い。ずっと続けていたお客さんと店員さんという関係…同じ部活の先輩と後輩という関係…
ただ、それだけの関係だと思っていた。
だが、あの日、ほんの少しだけ勇気を振り絞ったことをきっかけに新しく、恋人という関係が追加された。
これからは、部活の先輩と後輩、書店のお客さんと店員さんとして、そして、恋人として物語を作ろう。
そして、ずっと…今のように幸せでいよう。
先輩に恋をした。自分と先輩の関係はただの客とただの書店員 りゅう @cu180401
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます