第3話 店員さんのおすすめの本





「あ、はなみや。今日も来てくれたんだね。ありがとう」

まゆ先輩がバイトしている本屋さんで今日買う本を選んでいると本の在庫を整理していたまゆ先輩が声をかけてくれた。

「まゆ先輩、お疲れ様です」

「はなみや、良く来てくれるけど本そんなに読むんだね」

「はい。結構読む方だと思います」

「そうなんだね。あ、急に声かけちゃってごめんね。ゆっくりしていってね」

まゆ先輩は僕にそう言って本棚の整理を再開しようとした。お仕事だもんね。邪魔しちゃ悪いよね……

「あの、まゆ先輩、次に何読もうか迷っているのですけど、まゆ先輩のおすすめの本教えてもらえませんか?」

勇気を振り絞ってまゆ先輩に声をかけた。頑張って声をかけた。

まゆ先輩は少し驚いた表情をしてから笑顔に切り替えておすすめの本をいくつか紹介してくれた。


いくつかまゆ先輩はおすすめの本を紹介してくれたが、おすすめの本を紹介している間、まゆ先輩はすごく楽しそうにしてくれているように感じた。この本はね。とかあ、こっちの本もおすすめだよ。とか、話し出したらキリがない感じでおすすめの本をいっぱい教えてくれた。


「え、そんなに買ってくれるの?」

いろいろ紹介してもらった本の中から5冊ほど気になった小説を購入することにした。まゆ先輩は驚いた表情で僕を見つめている。

「はい。まゆ先輩のおすすめの本、楽しみに読ませてもらいます」

「うん。読み終わったら感想とか教えてよ」

笑顔で僕に言うまゆ先輩を見て僕はドキッとした。

「はい。また、読み終わったら…えっと…また、まゆ先輩のおすすめの本教えて…もらえませんか?」

「うん。いいよ」

まゆ先輩は笑顔で僕に答える。

勇気を出して踏み込んだ一歩、その一歩は、ほんの少しかもしれないけど、前進のための一歩だったと思う。

「じゃ…じゃあ、僕、お会計してきます」

「あ、せっかくだしまゆがレジやってあげるよ」

「え?本当ですか?めちゃくちゃ嬉しいです」

僕が喜ぶとまゆ先輩は大袈裟だなぁ。と笑いながらレジまで一緒に歩く。この少しの距離が永遠に続けばいいのに…と思う。ずっと…まゆ先輩の横を歩いていたい。


そんな願いが叶うはずもなく、一瞬でレジに到着して、まゆ先輩とカウンター越しに向かい合う。

「お預かりします」

「「あっ…」」

まゆ先輩に本を渡そうとした時にまゆ先輩と手が触れてしまった。僕がまゆ先輩にすみません。と言うとまゆ先輩は失礼しました。と言いながら本を受け取りレジを打ち始めた。先程まで、先輩と後輩のやり取りだった口調が、レジに入り他の店員さんやお客さんがいるところだと店員さんとお客さんのやり取りになる。当たり前のことだが、少しだけ寂しい気もする。

僕は財布からお金を取り出そうとするが先程まゆ先輩と手が触れてドキドキしてしまい手が震えて上手く財布からお金を出せない。そんな僕を見てクスッと笑っているまゆ先輩がかわいかった。でも、僕を笑っているまゆ先輩も手が震えていて本を上手く書店の袋に入れられていない。ちょっと苦戦していたまゆ先輩はすごくかわいかった。

「ありがとうございました」

「こちらこそありがとうございます。バイト頑張ってください」

「うん。読み終わったらまた来てね」

最後にまゆ先輩は今日1番の笑顔で他のお客さんに聞こえないような大きさで僕に言った。このまゆ先輩の笑顔を見るとすごく癒される。このまゆ先輩の…大好きな先輩の笑顔が見たいから…この本屋さんに通ってしまっているのかもしれない。

「絶対また来ます」

「うん。待ってるね」

絶対また来よう。と思ってしまう魔法が込められている一言をまゆ先輩は最後にかけた。


僕の中にある恋という感情を刺激する魔法だ。


また今度必ず来ます。

また笑顔で対応してください。

お会計を済ませてレジから少し離れた場所でレジを振り返った。まゆ先輩は再び本棚の整理に向かうようでレジのカウンターから出てきたところで僕と目があった。

目があった時にまゆ先輩が軽く手を振ってくれた。僕は頭を下げて本屋さんを出た。嬉しかった。まゆ先輩に手を振ってもらえて…

勇気を出して一歩を踏み出してよかった。


また来よう。








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