第2話 先輩を好きになった日




もうすぐ、大学2年生になる春

サークルは新歓活動の準備で忙しくなっていた。

看板を作ったりポスターを作ったり、チラシを作ったり…

僕が入っていたサークルは吹奏楽サークル。

当然、新歓活動で演奏会もする予定だ。


僕は生まれつき不器用だ。

絵は書けないし、字は汚いし、紙を折ったり切ったりすることも苦手だ。正直言って新歓活動の準備に参加しない方がいい。

そもそも、インキャな僕がああやって集団の輪に入るのは…あまり好きではない。


好きではない。と言ったが、本心では混じりたいと思う。だが、僕が入ると作業効率は悪くなる。

そう思った僕はせめて、演奏会で頑張ろう。と一人練習をしていた。


僕の担当楽器はフルート。

ありがたいことに演奏会ではソロパートをいただくことが出来た。

新歓活動の準備で活躍できない分、ソロパートを頑張ろう。と思って練習していたが…何故だろう。上手くできなかった。

いつもなら鳴るはずの音も鳴らせなかった。そうしているうちに音のイメージは崩れていった。

ホールで1人、舞台に立ち何度も何度も練習をする。今頃、みんなはホールの控え室で新歓活動の準備をしている。

準備で役に立てないのだから…

せめて、演奏くらい…上手くできるようになれよ……


自分に嫌気がした。

こんな役立たずな自分が嫌になり舞台の隅っこで蹲っていた。

「はなみや、今ちょっといいかな?」

そんな僕に話しかけてくれたのがまゆ先輩だった。

正直言ってまゆ先輩とはあまり関わったことがなかったので何の用だろう。と思った。新歓活動の準備を手伝わない僕に文句を言いに来たのかな…と思いちょっと憂鬱になった。

「まゆさ、今、ポスター貼るようの三角デコをダンボールで作ってるんだけどさ、まゆ1人じゃ大変だから手伝ってくれないかな?」

まゆ先輩は笑顔で僕に言ってくれた。

「何で…僕なんですか…僕がいても邪魔になるだけですよ…不器用だし…」

口に出したとたんしまった。と思った。

先輩相手に失礼なことを言ってしまったのではないか…と…

「うーん。なんかさ、はなみやが練習してた音聴いてたけど不調そうだったからさ、練習するのやめちゃったみたいだったから手伝ってくれないかなぁって……不器用とか関係ないよ。はなみやができることは必ずあるからさ、それを見つけて手伝ってくれると助かるな。あとは…せっかくの新歓活動なんだからさ、そんな思い詰めて練習してないで一緒に楽しく準備しようよ。ソロパートの練習ならさ、準備終わってから一緒にやろうよ。まゆ、そこの伴奏あるからソロパート吹くはなみやと合わせておきたかったんだよね」

眩しかった。失礼な聞き方をした後輩に対して笑顔でまゆ先輩は答えてくれた。

まゆ先輩は行こう。と蹲っていた僕に手を伸ばしてくれた。僕はまゆ先輩に引っ張られて控え室に入る。まゆ先輩がいた控え室にはまゆ先輩と仲のいい1つ歳上の女性の先輩が2人いた。その先輩たちは2人で三角デコ作りをしていた為、僕はまゆ先輩のお手伝いをすることになった。


楽しかった。先輩たちと話したり、失敗しても笑って許してくれるまゆ先輩が眩しかった。

三角デコ作りが終わり、まゆ先輩と2人でソロパートの練習をした。僕はフルートでメロディーを吹き、まゆ先輩はバスクラリネットで伴奏を吹く。

さっきまで全然鳴らなかった音が驚くように鳴り響いた。まゆ先輩のおかげだ……


あの時、何もできない役立たずな自分…そう思い込んで暗闇の中にいた僕を助け出してくれた光がまゆ先輩だ。

あの時、まゆ先輩に声をかけられたことがまゆ先輩を好きになったきっかけだろう。


好きです。大好きです。

その言葉を伝えることはできなかった。

新歓活動の準備をした際に、まゆ先輩が彼氏の話をしていたから…

好きです。なんて伝えることはできなかった。

大好きな先輩に迷惑をかけたくなかったから。

好きです。と伝えられなかった僕はそれ以降、ほとんどまゆ先輩と関わる機会はなかった。

あの日…本屋さんで偶然まゆ先輩に会うまでは……


それはもう…1年も前のこと……

あっという間に1年は過ぎた。

今年でまゆ先輩は…大好きな先輩は卒業してしまう。

卒業して就職をしたら本屋さんのバイトも辞めてしまうだろう。

僕に残された期間はあと1年。

あまりにも短い…1年なんて……あっという間に過ぎてしまう。

永遠にこの1年が続いてほしい。

お願いだから……

まゆ先輩…大好きな先輩と離れたくない。



先輩、先輩のことが好きです。大好きです。



大好きな先輩が卒業する前に……伝えたい。

迷惑だと思う。

それでも……伝えたい。

1年という短い時間の中で…大好きな先輩に想いを伝えたい。

お願いします。

大好きな先輩に…気持ちを伝えるための一歩を踏み出す勇気を……


ください。









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