先輩に恋をした。自分と先輩の関係はただの客とただの書店員

りゅう

第1話 ただの客とただの書店員




わかってる。これが、叶わない恋だということは…でも、僕はあの人にどうしようもなく恋をしてしまっている。目の前で、明るい笑顔でレジを打ってくれている書店員さんが好きだ。

僕と先輩の関係はただの大学のサークルの先輩と後輩だ。ちょっと繋がりがあるだけの人間、それ以上でもそれ以下でもない。


1年前、大学の授業が終わり、車で家に帰宅する際に漫画の新刊を買いたくて帰り道にあるショッピングモールの本屋さんに寄り僕は漫画の新刊を手に持ちレジに向かった。

「あれ、はなみやじゃん。お疲れ様」

「ん…え、まゆ先輩!?」

レジで向かい合った女性に僕は目を奪われた。大好きな先輩と街中で遭遇したのだ。驚くのは普通だろう。少し茶色っぽい髪の毛をポニーテールにまとめていて、白のワイシャツに黒のズボンにエプロンといったバイト姿がかわいすぎた。やばいこれ…最強すぎる。と思いながらお会計をしてもらう。

「お会計432円になります」

僕は500円玉を渡してお釣りが渡されるのを待つ。まゆ先輩はレジに金額を打ち込み表示されたお釣りを渡そうとするが……

お釣りとして取り出そうとした小銭を勢いよくレジの後ろに吹き飛ばした。かわいい。何そのミス、かわいすぎる。反則でしょう。と思っているとまゆ先輩は何事もなかったようにレジから小銭を取り出して僕にお釣りを渡すが、まゆ先輩の耳が赤くなっていたのが、とても印象に残っている。かわいすぎるよ。あれは……


それから、僕はその本屋さんに通うようになってしまった。漫画やラノベ、小説が好きだった為、家の近所の本屋さんにはよく行っていたが、家の近所の本屋さんではなくて先輩がバイトいる本屋さんに通うようになってしまった。


先輩がバイトしている本屋さんに通い初めてもう1年くらい経過している。

気持ち悪い…そう思われても仕方がない。でも、少しでも先輩と関わりたかった。大好きな先輩と一瞬でも、一言でもいいから言葉を交わしたかった。

ダメだとはわかっている。そんなことをしても先輩は振り向いてくれないとわかっている。自分なんて、ただの後輩、サークルが同じなだけで関わりも少なくあまり話したことがない。ただの後輩だ。それなのに、僕は目の前にいる先輩を好きになってしまっている。


先輩のことが好き。大好きだ。

何度も何度も諦めようとした。諦めないと自分が辛くなるだけだと自分に何度も言い聞かせようとした。辛くなることがわかっている恋なんて…してはいけない。

そもそも、僕が先輩に好意を持つことは先輩にとって迷惑でしかないだろう。だって…………


先輩には彼氏がいるのだから。


先輩に彼氏がいると聞いたのは去年の出来事だ。今は別れているかもしれない。だが、こんなにかわいい先輩が彼女になってくれたら僕は絶対に手放したくない。きっと、先輩の彼氏さんも同じ想いだと思う。


だから、諦めようよ。

辛い想いしたくないでしょう?

先輩のことは諦めてさ、また、別の恋を探そうよ。

ね……?


何度も何度も自分にそう言い続けた。

だが、自分は首を縦には振ってくれない。

諦めたくない。諦められない。と、何度も何度も答え続ける。


どうして諦められないの?辛くなるだけだよ?

好き。なんだもん。


先輩には彼氏がいるかもしれないんだよ。迷惑でしかないんじゃないかな?

それでも…好き…だから、諦めたくない。


それでも…どれだけ先輩のことが好きでも、いつかは諦めないといけない時が来るかもしれないよ。だったら早い方がいいんじゃない?

それでも…諦めたくない。好き…だから…できることは…したい。


あと、1年もないんだよ。先輩とこうやって会えるのは…

うん。だから、この1年、先輩が卒業するまでは…がんばりたい。


ずっと、自分の心の中でこのような問答を続けた。

自分が出す結論はいつも決まって……諦めたくない。


バカだよなぁ……

叶わないって……わかってるのに……

それでも……諦めたくない。って、必死に足掻こうとしている。


好き。ってこういうものなのだろうか。

好き。って意識してしまったら…もう、止まることはできないのだろうか…


先輩には幸せになってほしいと思う。だって、好きだから……

でも…先輩を幸せにしてあげるのは自分がいいと思ってしまう。だって、好きだから。


どうしても、諦められない。

先輩、ごめんなさい。あと1年だけ……

この感情を先輩が知ったらどう思われるかな…気持ち悪い。なんなのこいつ。とか思われるのかな……

怖い。怖いよ。


諦められるなら諦めたいさ。

でも、気づいたら僕は、この本屋さんに足を踏み入れている。

諦められないから……


「また来てくれたんだね。ありがとう」

まゆ先輩に…大好きな先輩に笑顔で言われて嬉しかった。

「まゆ先輩、バイトお疲れ様です」

そう言いながらまゆ先輩に本を渡してお会計をしてもらう。お会計をしながら少しだけお喋りをする。この、数分にも満たない時間が、僕は大好きだ。幸せだ……

「また来てね」

「はい。今日買ったもの読み終わったらまた来ます」

まゆ先輩に笑顔で見送られて僕は本屋さんを出る。

また来てね。この一言が僕がここに通い続けることをやめられなくしているのかもしれない。


このどうしようもない恋は…どうなるのだろう。

まゆ先輩に…大好きな先輩に…想いを伝えることはできるのだろうか……


僕とまゆ先輩の関係はただのサークルの先輩、後輩で…

ただの客とただの店員……

それだけだ。それ以上でもなくそれ以下でもない。

きっと、先輩が卒業して、バイトを辞めたらもう。関わることがない関係だ。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る