第40話
暖かなテラスの朝食の場で、王妃様であらせられるパオラ様が涙を流している。
「まさか清廉潔白なリトさんを疑ってしまうなんて、私は何て事を。」
信頼が痛い。
「いえ、誰にでも間違いはある事です。聞き取り方によっては、他の人でもパオラ様と同じように捉えたかも知れません。それに僕も無礼な事を言いました。申し訳ございません。」
「何を言うの?あの様に人から叱られたのは初めてなのです。これからも私が間違った事を口にした時は遠慮なく止めて下さいね。」
「「「「!?」」」」
キングシリウスの眼球が取れそうになっている。
王女姉妹が目を見開いている。
美しきロゼさんの瞳には魅力が詰まっている。
暫くして泣き止んだパオラ様が口を開く、
「そういえば先程、気になる事を口にしていましたね?リトさんには待っている者がいないとか。どういう意味だったのでしょう?」
やっと再開された朝食が再び中断される。
「文字通りというか何というか…。僕の両親は、もしかしたら僕が異世界に召喚されて家に帰っていない事に気が付いていないかも知れません。」
パオラ様が不思議そうな顔している。
「ご両親とは離れて暮らしてたという事でしょうか?」
「いいえ、同じ屋根の下に住んでいましたよ?彼等は仕事が生き甲斐なので。もう何年も両親とは親子らしい会話なんてしていませんね、まず顔を合わせる事が稀ですし。」
パオラ様は驚いたのか固まってしまっている。
珍しくキング・シリウスが声を掛けて来た。
「どうしてだ?同じ家に住んでいる親子で何故?」
分からないのだろうか?
「それ程やり甲斐のある仕事だったのでしょうね。いつしか彼等は目的と手段の順番が入れ替わってしまったのです。豊かな生活を送る為に働いて賃金を稼いでいた日々から、より良い仕事を成す為に賃金を使って生活する日々へ。帰って来るのは僕が眠りに付いてから、目覚める頃には出て行ってました。お陰様で料理に洗濯に掃除、ほとんどの事は自分で出来るようになりましたよ。」
自嘲するように笑っていた僕は、気付けばパオラ様に抱きしめられていた。
「ユーリかセレスのどちらかと婚姻を結んでからと思っていましたが、もう我慢の限界です。今から私の事を母と呼びなさい!」
もう訳が分からない。
キングシリウスは笑顔で頷いていた。
使えない…。
王女姉妹は涙を流していた。
魅惑のロゼさん、貴女の涙は異世界の宝石です。
「ちょ、ちょっと、離れて下さい。パオラ様?聞いてますか?パオラ様?」
「母と呼ぶまでは離しません。さぁ、お母さんですよ。リトさんには元の世界で得られなかった家族の愛を教えて差し上げます。」
何て傍迷惑な人だろうか?
キングなしりうすは漢泣きしている。
一生泣いていろ!
王女姉妹は感動しているようだ。
ビューティフルなロゼさんは、美の世界から愛されているのだろう。
パオラ様から解放されたのは、そこから更に10分ほど経過してからだった…。
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