第29話

 激しく目が泳ぐ。


 クロールでもしているんじゃあなかろうか?


「おいおい、大丈夫か?」


「え、ええ、も、もちろん、だ、大丈夫ですとも。」


 目がバタフライ。


「事情がありそうだな。話してみろ。心配せんでも聞いているのは俺たちだけだ、不敬罪なんて言わん。」


 本当だろうか?


 だが目が背泳ぎを始めそうだったので仕方なく白状した。



 年下に懐かれやすい僕は、よく水沢の妹も可愛がっていた。

 なので僕が年下を好きだと勘違いした水沢に、セレス様に対して懸想しているのではないかと勘繰られてしまったのだと。

 その時に水沢の口から妹の名前が出て来た事に焦って、ついメロメロだと答えたのをセレス様ご本人に聞かれてしまい、否定すると物凄く悲しそうな顔をされてしまい引っ込みが付かなくなってしまったと。

 ユーリ様に至っては、きっぱり違うと返事したのにも関わらずメロメロなんでしょと聞き続けられ、否定し続けると最終的に泣かれそうになったので、仕方なしにメロメロですと答えたと。


 正直に話そうとしたらロザリーさんに、どちらにしても不敬罪ですと言われ困っていた事を白状した。


「やはりか…。そもそも2回しか会ってないし、変だと思ってな。朝食の時も冷や冷やしたよ。」


 王様は、どこか納得しておられた。


 そうなんです、僕も辛かったんです。


 カティアさんとユリスさんは哀れんだ目で僕を見ておられた。


 はい、僕は被害者です。


「よし、全て理解した。今回の事で不敬罪は適用しない。無理矢理に言わされたような物だしな。」


 本当に、話の分かる王様であらせられる。


「それでもカガワ、そのままメロメロである事を貫き通せ。」


 王様は親指を突き立て良い笑顔を向けておられる。


 おやおや、風向きが変わっておりませんか?


 カティアさんとユリスさんは救いを求める様な目で僕を見ておられる。


 何故に?


「まずカガワ、パオラに知られると君の身が危険だ。そして次にロザリーの身が危ない。最後に真実を知って黙っていた俺達3人は、この部屋の住人となるだろう。」


「えっ?」


 あの王妃様、そんなに怖いの?


 あんなに美しいのに?


 20代前半にしか見えない完璧なプロポーションを持つ王妃様は、


 異世界ではラスボスだったらしい。


「頼む、皆の為にメロメロでいてくれ!」


「「メロメロでお願いします。」」


「いやだな、皆さん何を言っているんですか?王妃様やユーリ様、セレス様や王様が認めて下さった通り、既に僕はメロメロですよ。」


 王様は涙を堪えて頷いてくれた。


 カティアさんとユニスさんは感動で泣いていた。


 いったい、僕達は拷問部屋で何をしているのだろうか?


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