第28話
拷問部屋での密談は続いている。
「御自身の立場に置き換えて考えてもみて下さい。大切な家族を1人残して来ている者が、それを心配しないなんて事あるのでしょうか?実際に本日の訓練で1度パニックを起こしています。」
「……どういう事か詳しく説明して貰えるか?」
「皆それぞれ元の世界に家族がいますが、特に水沢は面倒を見なければならない大切な12歳の妹がいます。僕たちの世界で12歳という年齢は、まだ誰かを頼らなければ生きて行けない子供です。そんな大切な妹を長い間、それこそ厄災から世界を救うまでの期間、放置しなければならないなんて状況を忘れてしまうなんて事があり得るのでしょうか?最悪な例ですが、世界を救って元の世界へ帰り着いたら大切な妹が亡くなっているなんて結末もあるかも知れないのに。」
「では、メグミというのは…。」
兵士から昼間の状況を聞いたのだろう、
カティアさんが悲痛な面持ちで呟いている。
「はい、彼女の妹の名前です。ですが今日のパニックも突然人が変わったかのように落ち着いたようで、そちらも何処か異常だと感じるんです。」
「確かに放置できんか。どう対処するつもりだ?」
「ですので出来れば文献や資料から、
・厄災が起こるまでの期間や難易度。
・過去の勇者達にどのくらいの犠牲者が出たか?
・郷愁の念を抱いていなかったか?
・元の世界への帰還方法。
・過去の勇者のステータスやスキル。
などを調べさせては貰えないでしょうか?」
「それは構わないが、それで何が得られる?」
「少しでも実例が多い方が何か起きた時に対処し易くなりますし、彼女達の精神面や身の安全に繋がると思います。」
「そうか…。ところで君は大丈夫なのか?君は随分と冷静に分析しているように見えるが。」
「へっ?えっと、大丈夫じゃありませんよ。不確定な事や不安な事ばかりだからこそ冷静に頭を働かせているんです。戦う力がないからこそ別の方面から彼女たちを守りたいとは思っていますが。それに僕には待っている家族が居ないですし。」
「「「………。」」」
「?」
恵ちゃんの事は僕だって心配だ。
だけど足掻いたところで現状では、どうしようもない。
それに厄災を乗り越え彼女達だけを帰してしまえば、後の僕はこの世界で自由なのだし。
「とにかく今は情報が少なくて正確な事が何も言えません。僕の今の状態はレベルやステータスが低いのが理由かも知れませんし。少しずつ検証して分かった事から報告して行くという形を取らせて頂ければと思うのですが。」
「分かった。ここでの会話は我々4人だけの物だ。それでいいな?資料の管理はユリスに任せる。この部屋は暫く使う予定もないし、いつでも好きに使えば良い。カティアは訓練での勇者殿達の様子を注意しておくように。」
「「はい、かしこまりました。」」
「ありがとうございます。」
ユリスさんとカティアさんに指示が与えられ、僕も資料を閲覧する権利は得られた。
予定していた通りの成果は出たようだ。
「そういえば、まだ君には聞きたい事があったんだ。」
「はい、何でしょうか?」
まだ何かあっただろうか?
「娘達にメロメロなんだそうじゃないか?」
王様は良い笑顔で問うて来る。
いつまで続くのだろうか?
異世界よ、今日の僕は結構働いたんだけどな!
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