第10話

 長くて苦痛だったはずの階段が、今では少しでも長く続けば良いと心から思っている。


 あぁ、名もなき兵士さん共に歩んでくれるのですね?


 すいません、名前くらいありますね。


 でも妹いないですもんね。


 別に妹至上主義というわけではないんですけどね。


 などと考えているうちに4階である。


 えらく荘厳な扉の前には別の兵士さんが2人。


 どうしても妹の有無を同級生達にバレないうちに尋ねておきたくなる。


 すると、ノックも妹の確認もなしに勝手にドアが開き始める。


 寝ている姿を見て不敬罪を言い渡されたら、どうしよう?と怯えていると中から声がかかる、


「勇者カガワ殿、お入り下さい。」


 命拾いしたようである。



 少し警戒しつつも謁見の間へと足を進める。


 共に登り切った妹無しの彼は外で待機らしい。


 大方の予想通り赤い絨毯に玉座、数名の近衛騎士に魔導士らしき人達。


 枢機卿らしき人物や国の中枢を担うであろうお偉方、中央の金髪の美丈夫が王様。


 お隣の銀髪が王妃様、同じ金髪と銀髪の姉妹が王女といったところか。


 さすがに6回目ともなれば、貴族達は疲れて帰ってしまわれたのだろうか?


 もしくは最初から呼ばれていないのか?


 そして今、この場に並んでおられる方々はきっとプロフェッショナルだ。


 疲れた顔・嫌な顔一つしているようには見えない。


 だが、おそらくは見えないだけだ。


 なんたる意識の高さ。


 むしろ笑顔が怖い。


 もしや、この謁見の中で立ったまま寝ている人を探し出す為に異世界へ来たのではなかろうか?


 それとも4回目辺りで慣れてしまったのだろうか?


 僕ならば開口一番に「娘はやらん」と言ってしまいそうなものだが。



 僕はセオリー通り玉座から数メートル手前で片膝をつき頭を下げ口を開く、


「この度はお招き頂き有難う御座います。そして、お忙しいのに何度もお時間を作って頂き申し訳ございません。」


 日本人らしく、腹降った先制攻撃を仕掛ける。


 反省しているという態度を見せ許して貰えるまで謝り倒すのが、事を大きくしないコツである。


 しかし、芳しい反応が返って来ない。


 ジャパニーズサラリーマンの伝家の宝刀は遂に錆び付いたというのだろうか?


 それとも先に話しかけたのがマズかったのか?


 不安に思いつつ不敬ながらも少し顔を上げる。


 すると何という事でしょう。


 皆様、口を開けて固まっておいでではないですか。



 ややあって宰相らしき初老の紳士が口を開く、


「いえ、召喚したのはこちらの世界の都合なのですから勇者殿が謝る必要はないのですよ。」


「しかし同じ説明と6度も繰り返すのは、それだけでも疲れるでしょう?」


「必要な事なのですよ。我々は勇者様を歓迎しているのですから、どうという事はありません。」


「でも王様とそこの騎士さん、疲れて寝そうでしたよね?」


「えっ?」


「えっ?」


『えっ?』


 皆様からの注目を浴び、王様と右から2番目の騎士が物凄い勢いで首を振っている。


 やはり、6回目ともなると疲れてしまうようだ。

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