第6話
馬車は順調に進み、街の入り口に差し掛かる。
念のためにカルロスさんに僕を王城に届けないとどうなるか聞いてみたところ、
おそらく、お義兄さんだけでなく彼の家族も処罰されるとの事。
ダメだ、将来の妻の家族に迷惑はかけられない。
くれぐれも宜しくお伝え下さい。
特に審査もなく街に入り込み王城へと進む。
行き交う人々や流れる街並みを眺めながら、結構なショックを受け眩暈を感じる。
どうやら僕は自分自身が思っていた以上に、異世界へ幻想を抱いていたようだ。
仕方ないよ、色んな作品に触れて来たからね。
思い入れのあるキャラクターも何人かいるんだよ。
たった今すれ違ったのは、
たぶん、
きっと、
おそらく、
惜しむ事なく、
猫の獣人なのだろう。
さすがは異世界、当たり前のように獣人達も歩いておられるようだ。
ピンッと立てた三角耳に長い尻尾、
綺麗な毛並みは日頃のケアの賜物か。
きっと語尾には可愛らしく「にゃん」と付くのだろうか?
だが、全体像を把握すると完全なる二足歩行の猫だった…。
身長175センチを超える僕よりも背の高い、
まさしく二足歩行の猫だった。
ええ、それはもう見間違いようもなく二足歩行の猫だった。
もしかして、あの有名な鳥人さんも異世界にいるのか?
しかし、誰だ?
普通の人間ベースに、
獣耳と尻尾が生えた人類こそを獣人と呼んだのは?
この世界にウサギの獣人が存在するのならば、
この世界の基準ならば、
彼ら、彼女らに出会った時、
僕は正気を保っていられる気がしない。
リアルなバニーさんをイメージしていただけに、
もう恐怖しか湧いてこない。
そもそも二足歩行出来るのだろうか?
僕と変わらぬ背丈で跳ねられても又、恐怖である。
泣くかも知れない。
異世界よ、僕が何をしたっ?
恨みでもあるのかっ?
多くの尊い犠牲を払い、悲しみを乗り越え、僕と兄貴は王城へ辿り着いた。
そして城門前にて遂に、この世界で初めての相棒との別れも来てしまった。
「それでは、ここからは別の者が案内致します。私はこれで。」
何とあっさりとした別れであろうか。
立つ鳥跡を濁さず…、さすが兄者である。
「ありがとうございました。きっと、またお会いしましょう。お義兄さん、妹さんにも宜しくお伝え下さい。」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「ん?」
カルロスさんと変わらぬやりとりを楽しんでいると後任の案内役が現れる、何か手続きがあるらしく暫く1人で待たされてしまった。
その間に城を見上げる。
たぶん日本基準で15階建より高いじゃないか?
どうも大型の百貨店より大きく見える。
左右の塔には居室でもあるのだろうか?
謁見の間は何階だろう?
こういう場所に自分が来る事になるとは思いもしなかった。
ここに来て初めて思うのは、
唯々、エレベーターがあって欲しい!
という切実な願いだった。
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