第3話

その日は何て事のない1日だった。


いつも通りの1日。


いつも通りの相談作業。


いつも通りの僕を装う。


少し違いがあるとすれば、


心なしか相談件数が少なく感じたくらい。


いつも通りの授業を終えて放課後。



 特に用事もなかった僕は、下駄箱で靴を履き替えて校舎を後にする。


 外に出た僕は照りつける太陽が眩しくて手で日射しを遮る。


 明るさに慣れさせようと目を閉じ、再度開くと、そこは神殿のような建物の中だった。 


 いったい、いつ移動したのか?


 あまりにも唐突な出来事に固まったままの僕に背後から声がかかる、


「ようこそ。お待ちしておりました、勇者様。」


 昨今の様々なライトノベル・アニメでテンプレになり過ぎた勇者召喚だと瞬時に理解してしまった僕は、不謹慎にも心躍らせる。


 だって異世界召喚物は大好物なんだ。


 物語に没頭すれば、現在逃避出来るという悲しい理由だけれど。





 深呼吸をして心を落ち着かせる。




 そう。


 僕の背後には今、


 大勢の貴族、


 宰相などの国の重鎮、


 王家を守る騎士団、


 勇者を召喚した宮廷魔道士、


 そして何より、


 僕のヒロインたる王女様も立っているのだから。


 国王様!いえ、お義父さん!


 これから僕は勇者特典で付与されたチート性能を鑑定されて会場を沸かすんですね、分かります。


 僕は満面の笑みで振り返る。




 すると、なんという事でしょう。


 そこには甲冑を着た兵士が、たった1人で佇んでおられるではありませんか。


「えっ!?」


「えっ?」


 周りを見渡すが、やはり彼以外には誰一人として存在しない。


「んっ?」


「ん?」


 彼が僕のヒロイン?変な汗が出てくる。


 まさか彼1人で、鑑定から勇者の仲間、


 果てはヒロインからライバルまで


 いったい彼は1人で何役をこなすつもりなのか?


 異世界よ、あまりにも酷ではなかろうか。


 このパターンは予想外だった。


 再度、思考に没頭中で固まっている僕に彼から声がかかる。


「あの?」


「は、はいっ」


「急な出来事に動揺されていると思います。

 どうか、ご説明をさせて頂いても宜しいでしょうか?」



……どうやら、彼はヒロイン候補ですらなかったらしい。


 彼の話によれば、


 この世界の勇者召喚は魔術師などの個人や国などの機関が行うのではなく、世界的な危機が訪れようとした時に自動的に呼び出されるとの事。


 ただ場所だけは召喚の塔に決まっていて、彼のように兵が何名か常駐しているらしい。


 どうか、自信に満ち溢れた僕の笑顔を返して欲しい。


 そして少しガッカリしてしまったのだが、この世界には特に名前はないらしい。


 アニメやラノベよろしく異世界〇〇なんて名前があるものとばかり思っていたのだ。


 考えてみれば僕たちの世界も地球という星や大陸や国に名前はあれど、世界に名前はない。


 物凄く、当たり前のことだった…。

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