第2話 辿り着いたのは
俺の身体を包む眩い光が消えていく。多分、これで異世界へと転移が終わったんだろう。ふっふっふ、ここから俺の新たな人生が始まる!
さて、新たな一歩を踏み出すとして……まずは現在地の確認だな。こういう時は割と森の中とかに転移して、モンスターに出くわすという事も多いはず。
「って、おいこら!? 普通にどっかの室内じゃねぇか!?」
おっと、つい目の前の光景に驚いて盛大な独り言が出てしまった。落ち着け、俺。もしかしたらこれはあの女神様が転移の際に気を利かせてくれたのかもしれない。そう、これは普通の異世界転移ではなく、異世界召喚の可能性も出てきた!
そう仮定した上で、改めて周囲を確認してみよう。軽く見た感じでは……なんだか普通の木製の小屋っぽい作りの建物で、人影は特になし。ふむ、竈があるから現代日本とは文明水準は違いそうではある。
これはあれか、召喚の座標が狂ったとかそういうパターンか? もしくは人里離れた山小屋とかで、自身を生贄にして悪魔とかとして呼び出されたとか? ふむ、魔王への道も悪くはないな。
それと……気になるのは、いつの間にか持っていた麻袋である。こんなもんは俺は持ってなかった筈だけど……あ、これはあの女神フィーネからのチートアイテムのプレゼント! って、あの常識的な対応をしてきた女神様がくれる筈もないか。
「とりあえず中身を確認してみるか……」
まぁあの女神様の事だから、無用な物を渡してくるはずはないだろう。えーと、中身を取り出して一通り確認していくか。
何か持ち上げたらジャラジャラ鳴ってる小袋と、少し大振りなナイフと、果物や魚の乾物っぽい食料と……これは何かの革か何かで出来た水筒っぽい? それと……なんか地図っぽいものと…………何か日本語で書かれた小冊子が入っている。って、ちょっと待てやー!
え、このジャラジャラ鳴ってる袋って……うわっ、金色の硬貨が1枚と銀色の硬貨が大量に入ってるって、思いっきり現金じゃねぇか! 他の物も数日の餓えは凌げるようなものが入ってるし!
「いや、これは違うだろ! 贅沢って程ではないけど親切か!」
おっと、落ち着け、俺。思ってもいなかった親切要素にキレて、最後に取り出して手に持っていた小冊子らしきものを床に叩きつけても仕方ない。……でも、ここまで中途半端な親切要素って何? そこはチート能力をくれよ、チート能力!
はっ!? 今思ったけど、この麻袋ってもしかしてアイテムボックスとかそういうやつか!? 今の中身も袋の大きさよりも多く入っていたような気もするし……よし、この小屋にあるものを追加で入れてみるか。
とりあえずその辺に置いてあった薪を適当に詰め込んで……って、あれ? 思ったようには大量に入らないな。それこそ大きさ相応に入る程度……うん、ちょっと薪を取り出して、さっき出した荷物を詰め直してみよう。
「あれ? 中々入らないな……?」
そして、少し苦戦した結果で分かった事は……元々の入れ方が上手かっただけで、入ってた位置を思い出しながら入れたら普通に入ったわ、くそ! ただの麻袋じゃねぇか! アイテムボックスでもなんでもなかったわ!
「……何かドッと疲れた」
折角の異世界に来たというのに、俺は何をやっているんだろう。なんか普通に誰かが生活してそうな小屋の中で、貰った荷物を勝手にチートアイテムだと思いこんで、無駄な徒労を味わっただけ……。
お約束なら、今頃は森の中で遭遇したモンスター相手にチート能力を試したり、そこでヒロインとの出会いとかがあったんじゃないのか? そうでなくても、もうちょっとこう、色々危険だけど刺激的な事がさぁ!
はぁ……、まぁとりあえず安全な場所があるのは良しとしようか。そういやさっきの小冊子の中はまだ見てないから、あれを見ておくか。何か重要な事が書いてあるかもしれないし。
えーと、何か表紙にタイトルが書いてあるね。どれどれ、何が書いて……『転移したばかりの人への異世界活動マップ』って、完全に案内用のパンフレットじゃねぇか! しかも転移先の町の地図は別途添付って……さっきの地図ってそれかー!?
何なの、このどこまでも親切設計の異世界転移……。パンフレットの初めの方を少しだけ見たけど、日本円とこっちの世界の貨幣レートとか普通に説明されてたし。金貨1枚が10万円相当、銀貨1枚が1000円相当、銅貨1枚が100円相当で、合計で20万円分は用意してくれているとか親切過ぎません?
ちょっとこれ以上このパンフレットを読み過ぎると新鮮味がなくなりそうだから、読むのはやめておこう。……これはある意味、チートですよ。うん、間違いなくチート。全然嬉しくないけど!
「てか、転移先の町の地図って書いてたよなぁ……」
そのままの意味で考えるならば、この小屋はどこかの町にある小屋の中という事になる。冒険も何もなく、初手から安全地帯かよ!
いや、そう考えるのはまだ早い……。もういい加減諦めようと囁きかけてくる俺の心の声には蓋をして、考えを巡らせる! そうだ、ここからこの町には悲劇が訪れるんだ! そしてチート能力に目覚めた俺が、それを助け出して一気に有名になる! そうさ、これはこのお約束の為の前段階に過ぎないんだよ。
さぁ、そうと分かれば小屋の外へと踏み出そう。今度こそ俺の新しい生活への第一歩となるんだ!
そうして俺は自分のいた小屋の扉を開けて、外へと歩みを進めていく。するとその目に入ってきた光景は、日本の田舎で見かけるような長閑な感じの農村であった。
「町じゃなくて村じゃねぇか!」
思わず再び小冊子を地面に叩きつける。いや、ここまできたらそこは普通に町で来いよ。なんでそこで中途半端に農村とかになってんの!?
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