第13話 新型怪人vs.国家権力

「へんしーん」


「へーんしん、キョピ」


 いつもはたちばなのおやっさんが悪の秘密結社「優しくしてね」に連絡を取り、前もって日時と場所を決めてから戦っている。


 だが今日は緊急出動だ。


 ツイッターに「駅前広場に現れた怪人に善良な市民がやられている」と複数の投稿が有ったのだ。投稿された写真を見ると、確かに何人もの市民が広場に倒れている。大変だ!すぐに助けに行くぞ!


 俺はベスパで、さおりんはおやっさんの軽トラですぐに現場に駆けつけた。


 そこではツイッターの情報通りのことが起きていた!


 電車が到着して何も知らずに駅から出てきた市民が、ひとり、またひとりと怪人にやられてバッタバッタと倒れていく。


 これは大変だっ!


 では、まずは戦いが終わってから食べるカップうどんの準備をしよう。


「よっこらしょ」


 バッタバッタと倒れる市民を横目に、俺はまず折り畳みテーブルを広げた。


「こら!なにしてんのよ!」


 バッタバッタと倒れる市民を横目に、さおりんはビーチでよく見かける縦長の1人用ポータブルテントを組み立てながら怒鳴ってきた。


「え?変身するまでのルーチンワークですが何か?」


 その時だっ。


 テュンッ


 折り畳みテーブルが一瞬で消滅した。怪人が手に光線銃のようなものを持っている。


 な、なんだ、この怪人は!?強力な武器を持っているのか?!ヤバいヤツだ!


「安心しなさい、あれは非生命体消滅光線銃よ!生命体には効果無しだから大丈夫!」


 なんでそんなこと知ってるんだ?


「秘密結社でバイトしてるときに、私が原型を作ったの、ついに完成したみたいね」


 さおりん、なんてことしやがったんだ!


「仕方ないでしょ、せっかく秘密結社に潜入したんだから、諜報活動がしやすいように武器開発の協力くらいするでしょっ」


 テュンッ


 うわあああ、今度はカップうどんが消滅した。


 だがしかし、こんな状況だが俺にはひとつの疑問がわいた。これは真っ先に聞かねばならない!


「そのなんとか言う光線銃を人に向けて撃ったら服だけ消滅してまっ裸になるのか?」


俺は少し期待を込めて聞いた。


「それは無いわ。色々面倒になるから安全装置として、ご都合主義が装備されているの!そんなことよりとっとと変身よっ、着替えを覗いたらぶっ飛ばすっ」


 そう言ってさおりんはテントの中へ、俺は正義のしるし赤いスカーフを首に巻いた。


「へんしーん」


「へーんしん、キョピ」


 テントから出てきたさおりんは、チェンソーを持ってピンク色をした悪魔の衣装で出てきた。ピンクだけどハロウィンか? 


「さあ来い!怪人め!」


 来い!と言いつつ、俺のほうから怪人に飛びかかると怪人はグーパンチをくらわせてきた。


 その瞬間、ドンっと全身に衝撃が走り俺は5m吹き飛ばされた。ええ、何という怪力だ。変身してなかったら肋骨が5、6本は折れてたかも知れない。


「さおりーんチェンソー!キョピ」


 さおりんが刃が回転しているチェンソーを振り上げた。さおりんも怖ええ。


 テュンッ


 チェンソーが消滅した。じっと手を見るさおりん。


「これはダメだわ、キョピ」


 そう言うとさおりんはカボチャの形をした笛を取り出した!もしかして超音波武器か?!俺は耳を塞いだ。


 しかし、


「風来坊~!」


と叫ぶとさおりんは


 ピコピコピー


と笛を鳴らした。


「華麗なるへんしーん」


 俺の背後から声がしたかと思うと、黄色いジャケットを着た男が現れた。いつぞやの風来坊だ!


 なにこれ?マモル少年がマグマ大使を呼ぶ時の笛みたいなやつ?


「お待ちなさい。闇雲に戦っても勝ち目は無いですよ。命が惜しかったら、まずは作戦を立てることです」


 風来坊の提案により、バタバタと倒れていく市民を横目に見ながら、俺たちは作戦会議を始めた。


「まず、あの光線銃を奪いましょう」


「どうやって奪うんだっ?」


「なんとかして奪いましょう」


「なんとかって?」


「なんとかです」


 あ、ダメだ。こいつバカだな。


 その時だ!


 ウー ウー


とパトカーがやって来て、いつものお巡りさんが一直線で俺のところに走ってきた。


「チェンソーを振り回しているヤツがいると通報があったぞ」


 そんな通報よりも、市民がバタバタと倒れてるって通報したヤツは誰も居ないのか?


「怪人は警察の管轄外だからな。話を逸らすな、チェンソーを振り回していたのはお前か?」


『こいつです』


 俺と風来坊はさおりんを指差した。


「チェンソー?何のことかわからないキョピ」


 証拠品が消滅したのをいいことに、さおりんはトボケた。


「トボケるな!付近の防犯カメラ映像を分析したら判明わかることだぞ!取り敢えず事情聴取だ、来たまえ」


「裏切り者ー!」


 お巡りさんに連れられてパトカーの後部座席に押し込まれたさおりんだが、まさにその時だ!


 テュンッ


 パトカーが消滅した。


「きゃん!痛いキョピ」


てててて」


 道路に尻餅をついて痛がるさおりんとお巡りさん。急に消滅したから、受け身をとる間も無かったに違いない。


「貴様ぁ」


 大変だっ!お巡りさんは立ち上がると拳銃を怪人に向けた。その瞬間!


 ブオーンと非力なエンジンをブン回す音が聞こえた。


 遠くから2台の軽トラが猛スピードで近づいてきて、お巡りさんと怪人の間に割って入り、中から全身黒タイツ姿の人型ひとがたが2人ずつ現れた。


 怪人が怪力だから、黒タイツ4人がかりで怪人を押さえるつもりなんだな!と思ったら黒タイツは4人がかりでお巡りさんにペコペコ謝り始めた。しかしお巡りさんは言った。


「お前ら、ごめんで済んだら警察は要らない、ということわざを知ってるか?パトカーを消し去った。これは国家権力に対する挑戦だっ!」


 そこをなんとかと手を合わせて懇願する黒タイツ。冷静さを取り戻し始めるお巡りさん。しかしその時またしても、


 テュンッ


 軽トラが1台消え去った。


 オロオロする黒タイツにお巡りさんが言った。


「撃つぞ!」


 黒タイツはうんうん、どうぞどうぞと頷いた。手のひらを返すとはこのことか!


 パーンッ


 乾いた銃声が駅前広場に響いた。キーンっと甲高い金属音がして、怪人の持っていた非生命体消滅光線銃が宙を舞った。


 あ、なんだ。怪人を狙ったんじゃなかったのか。なんと正確な射撃だ、見直したぞお巡りさん!


 くるくると宙を舞う非生命体消滅光線銃。


 黒タイツはあたふたあたふたと非生命体消滅光線銃をキャッチしようとした。しかし、キャッチしたのは黄色いジャケットの風来坊だった。あいつバカだぞ、あんなもん持って大丈夫か?


「これはすごいぞ。弾が当たったのに壊れている様子が無い。確かめてみよう」


 風来坊は非生命体消滅光線銃を怪人に向けた。でも全国の少年少女諸君!大丈夫だ!この光線銃は非生命体消滅光線銃だから怪人に効き目はない。何故なら怪人は生命体だからだ!非生命体消滅光線銃は非生命体にしか効き目が無いはずだ!俺は熱弁を振るった。


 が、しかし…


 テュンッ


 怪人は消滅した。


 え?新型怪人て非生命体なの?


 相手が怪人とはいえ、人の形をしたモノが一瞬で消え去ったから、風来坊は驚いて非生命体消滅光線銃を落っことした。すかさず黒タイツは拾い上げると軽トラに飛び乗りブオーンと去っていった。


 気絶した数十人の市民は怪人の消滅とともに何事もなかったかのように意識を取り戻した。お巡りさんと救急隊が救護を始め、街は平静を取り戻しつつあった。


「あれ?」


 前回同様、いつの間にか風来坊は居なくなっていた。


 橘のおやっさんのスナックで、俺はカップうどんを食べながらレンズの入ってないダテ眼鏡をかけたさおりんに言った。


「あの光線銃を橘研究所で作るんだ。新型怪人をやっつけられるぞ!」


「今日の新型怪人がたまたま非生命体だっただけよ。謎が多いわ、新型怪人。それに橘研究所はショボいのよ、さおりんミサイルとピコッとハンマーで今年の予算は無くなったわ」


「おいおい、所長を前にしてショボいとか言うなよ。まあホントだから仕方ないけどな」


『あはははは』


 その頃、中央警察ではエラい人が集まって会議が開かれていた。


「我々が売られた喧嘩だ。我々が買わねばならない。悪の秘密結社「優しくしてね」を監視するんだ。ヒーローより先に我々の手で潰すぞ」


「秘密結社の奴め…」


 市民を敵に回し、国家権力をも敵に回してしまった悪の秘密結社「優しくしてね」。追い詰められた彼らが行き着く先はどこなのか。

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