第11話 秘密結社爆破事件

「へんしーん」


 俺はいつも通りカップうどんの準備を整え、正義のしるし赤いスカーフを首に巻いて変身した。悪の秘密結社「優しくしてね」の怪人を倒すために。


 今日の舞台は駅前広場、怪人は人間にしか見えない新型だ。


「さあ来い、怪人め!」


 俺はカップうどんがこぼれないように離れた場所で怪人を呼び込んだ。


「うはははは、こうしてやる」


 しかし怪人はいきなりカップうどんの置いてあるテーブルをひっくり返し、近くにいた善良な市民に襲いかかった。


「ぎゃあ」


 なんだと?!今まで怪人が本当に市民に襲いかかったことは無かったぞ。


「ちょ待てよ」


 俺はキムタクの名台詞とともに慌てて怪人のもとへ走った。が、しかし怪人は人質にした市民を盾にしている。これでは攻撃するわけにはいかない。


「うはははは、どうしてやろうか?」


 なんだとっ?!人質をどうするか決めてないんだな。


 俺は考えた。人質が居るから攻撃は出来ない。しかし怪人は人質の扱いに困っている。つまり膠着状態だ。これは時間がかかるな。


 そこで俺は長期戦に備え、倒れたテーブルを元に戻し、新しいカップうどんを準備した。


 だが、その時だ!


 ウーウー

 ピーポーピーポー


 パトカーとともに機動隊車両と救急車も現れた。


 すぐに機動隊員がジュラルミンの盾を持って怪人の周りを取り囲み、いつものお巡りさんが拡声器で怪人を説得し始めた。


「お前はもう完全に包囲されている。すぐに人質を解放しなさい。君のお母さんは悲しんでるぞ」


 怪人のお母さんて誰だ?


「う、産神博士…」


 怪人は涙を流し人質を解放した。ちょ待てよ、産神博士はお母さんじゃないし、悲しんでるとも思えんぞ。


 解放された人質はすぐに保護されて、救急車で運ばれていった。


「撤収!」


 機動隊員は車両に戻り帰って行った。あ、あれ?怪人は放置なのか?するとお巡りさんが言った。


「君、何を言ってるんだ。怪人を倒すのは警察の役目じゃないぞ」


 その時だ!


 ブオーンと非力なエンジンをブン回す音がした。


 遠くから軽トラが猛スピードでやってきて、駅前ロータリーにギギギと急ブレーキで止まった。


 中から黒タイツの人型ひとがたが2人飛び降りてきて、1人が俺のほうにやってきた。


「なんだ?」


 黒タイツはゴメンねとペコペコして背後から俺の目を塞いだ。だ~れだ?


「黒タイツ!って、何しやがる!」


 俺がふりほどくと怪人は横たわってピクリとも動かなくなっていた。

 どういうことだ?!スイッチでも有るのか?どこに有るのか教えてくれ!


 黒タイツはダメダメと首を横に振り、怪人を軽トラの荷台に放り込んでブオーンっと帰って行った。


 俺はたちばなのおやっさんのスナックに行くと、今日の出来事を報告した。


「怪人が市民に危害を加えたと言うんだな…」


 おやっさんは難しい顔をして考え込んだ。


「怪人の目的は我々のはずなんだが…よし、お前に怪人の成り立ちを教えといてやろう」


 どうやら真面目な話のようだ。俺はカップうどんをすすりながら聞くことにした。


「6年前、俺よりも先にバイクレースを引退した産神うぶがみの奴が何かを企んでいると噂がたった。そこでわしはそれを確かめることにした」


 たちばなのおやっさんがまだバイクのレーサーだった頃、サーキットの南で「金目たい」という怪しげな食堂が流行っていた。そこで食事をしないものはレースで恐ろしい事故に見舞われると言う。その正体は何か。橘は「金目たい」の秘密を探るため、飛騨の国から正義のヒロインを呼び寄せた。その名は…「さおりん参上!」


 おい、これは「仮面の忍者赤影」のオープニングナレーションじゃないか。いや、それよりも気になることがある。


「なんだって!?つまりさおりんは俺よりも先に正義のヒロインだったってことか?」


「いや、変身出来るようになったのは最近だ。奴は第一線で戦うよりも、情報収集とその分析、武器や兵器の研究開発にけていてなあ…だから一線で戦えるヒーローが必要になってスマホアプリでアルバイトを募集したら、お前が来たってわけだ」


 兵器の研究開発にけているかどうかは審議したいところだが、それよりも…


「それで「金目たい」の正体はわかったのか?おやっさん」


「ああ、さおりんはさっそく「金目たい」でバイトを始めて秘密を探り始めた。やはりそこは産神が始めた食堂だったんだ。店長は産神で、黒タイツが店員だった。黒タイツは店内の仕事もしたが、その食堂に食べに来ないレーサーのバイクに密かに仕掛けをして、完走出来ないようにしてたんだ」


「じゃあ何人ものレーサーが死んだのか?!」


「いやいや、徐々にスピードが出なくなって走れなくなるというだけで、1人も怪我人は出なかったよ」


「地味だな…」


「やがてさおりんは食堂の地下にある秘密基地を発見し、産神の技術を盗んだ」


「それがさおりんの武器や兵器作りの原点なんだな、おやっさん」


「その通りだ。わしはさおりんがそのまま産神の手下にならないか心配したんだが、そんな時に事件が起きた」


 おやっさんはようやく真面目な顔をして続けた。


「そこのバイトはあまりにもブラックで、特に黒タイツが酷い扱いを受けていた。正義感の強いさおりんは激怒して、ある日、産神博士と黒タイツを全員店から追い出して、地下秘密基地の最下層部にさおりん爆弾を仕掛けたんだ。どうなったと思う?」


 俺はこの前の戦いで採石場の石切場が消え去ったのを思い出した。と言うことは…想像するにかたくないぞ、おやっさん。


「そうとも。地下からの爆風で店は木っ端微塵に吹き飛び、地下秘密基地は完全に崩れ落ちて深さ10メートルほどのクレーターが出来たんだ。サーキット跡地の南側に池が有るだろ。あれが爆発の跡なんだよ」


 なんということだ。さおりんの兵器は昔から地形まで変えてしまう威力だったのか。


「さおりんは店を破壊したからクビになったが、黒タイツたちはバイトの待遇が改善されて今でもさおりんに感謝しているらしい。だが産神博士はこれがきっかけで新たに悪の秘密結社「優しくしてね」を結成し、怪人を作って世に送り込むようになったんだ」


 いや、ちょっと待て。怪人がこの街によく現れるのは、おやっさんが原因だとこの前知ったが、怪人が出没するようになった大本の原因は、さおりんだったのか?!


「因果なものだなあ」


 おい、おやっさん、他人事みたいに遠い目をして言うな。


「この前さおりんと黒タイツが喋っているのを見たと言ってただろう、きっと昔のバイト仲間と久し振りに会って、積もる話も有ったんだろうなあ」


 だから他人事みたいに言うな。


「と言うことは、さおりんは産神博士と面識が有るんだな?!」


「有るもなにも、さおりんと産神は今でもメル友なんだぞ」


「なんだって?!悪の頭領と仲良しだと言うのかっ?」


「いや、未払いのバイト代を請求しているらしい」


 食堂を木っ端微塵に吹き飛ばしておきながらバイト代を請求するとは、さおりんもブラックじゃないのか。


「じゃあ産神が新たに作った悪の秘密結社「優しくしてね」の目的はさおりんなんだな、おやっさん」


「そうだとも。さおりんに酷い目にあわされたから、優しくしてねという願いが込められているんだろう。だが…」


 だが?


「木っ端微塵になった食堂と使えなくなった土地の損害賠償をさおりんが支払うまでは怪人を取り立てに寄越よこすと言うんだ。あんな若い娘に払えるわけも無いのになあ。産神は酷い奴だと思わんか?」


 残念ながら思わんぞ、おやっさん。


「しかし怪人が市民に危害を加えるというのはどうしてなのか…」


 おやっさんは難しい顔をして黙り込んだ。


 恐ろしい悪の秘密結社「優しくしてね」は、本当に悪になってしまうのか、そして再び善良な市民に危害を加えるのか、おやっさんのスナックは重い空気に包まれた。



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