第6話 ヒロイン始めました!

 

「へんしーん」


 いつものように俺は、変身前にテーブルを広げ、カップうどんにお湯を注ぎ、戦いが終わってから食べる準備をして、愛車ベスパで公道を法定速度で走りながら変身した。悪の秘密結社「優しくしてね」の怪人を倒すために。


 今日の舞台はいつもの駅前広場で相手は新型怪人、旧型と違い見た目はどう見ても人間だ。


 今日の怪人は武器を装備していた。バズーカ砲だ。


 よく寝起きドッキリで音と煙が出るバズーカ砲があるが、それと同じできっと驚かすだけで殺傷能力の無いものだろう。その証拠に武器を持っているのに善良な市民に通報されることもなく平然と天下の駅前広場に居やがる。


「さあ来い、怪人め!」


 ドーンッッッ


 な?!いきなり撃ってきやがった。


 ヒュンッッッ


 何かが俺の横を猛烈なスピードで通り過ぎた。


「ひぇぇ」


 ガシャーンッッッ


「うわあああああ」


 バズーカ砲から射出されたバレーボールがテーブルに命中して、カップうどんと共に倒れた。


「ふはははははは、戦いのあとのお楽しみをぶちまけてやったぞ。これで貴様は戦いの目的を失い腑抜けになるのだあ」


 俺はガチめに怒りがこみ上げてきた。


「おいお前、食べ物を粗末にしたな。こっち来い」


 俺は氷のような目つきで怪人を睨み


「そこに座れよ」


と怪人を正座させた。


「はい、すいません」


 怪人はシュンとしょげて正座した。


 俺は説教を始めた。決して楽しみにしていたカップうどんを台無しにされたからではないぞ、食べ物を粗末にしたからだ。


 同じ内容を別の角度から別の表現で何度も何度も繰り返しネチネチネチネチと説教した。

 なんせカップうどんの時間を気にしなくて良いからな、30分ほど怪人に精神的な攻撃を加えてやった。


 説教が終わると長時間の正座で足が痺れたのか、怪人はよろよろと立ち上がりかけた。が…


 ガクッ


と膝をついて崩れ落ちた。


「ヤバいっ」


 俺は一瞬身構えた。やられたら爆発するタイプだったら巻き込まれてしまうからだ。


 しかし怪人は爆発しなかった。新型怪人はやられた後どうなるのかまだまだ未知数だから怖い。


「ふう、助かった…」


 いつもならこのタイミングで軽トラに乗った黒タイツの人型ひとがたが怪人を回収に来るんだが…。俺は公道に出て辺りを見渡した。来ないぞ。渋滞しているわけでもないのにおかしい。


 これはまさか…しまった!


 俺は急いで怪人の倒れた場所に戻ったが手遅れだった。液状化した怪人が側溝から下水道に向かって流れ込んでいた。これはマズいぞ。通報されたら…。


「おいキミ」


 やっぱりだ。またしてもいつものお巡りさんだ。


「善良な市民から通報を受けて来たんだが、キミが今、下水に流していた物はなんだ?場合によっては「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」違反になるぞ」


 いつも通報から現場に来るまでが早すぎないか。でもそんな文句を言ったら面倒くさいことになるかも知れないから黙っておこう。


「今のは怪人です」


「本官を侮辱するのか?液体だっただろう」


「噂には聞いていたんですが、液状化するタイプの新型怪人だったようです」


「新型?液状化?警察にそんな情報は入ってないぞ。話を聞かせてもらおうじゃないか」


 俺はパトカーの後部座席に乗せられて事情聴取を受けた。でも怪人は警察の管轄外だ。なぜ事情聴取されなきゃならんのだ?



 その時だ。


 ブオーンと非力なエンジンをブン回す音が聞こえた。遅いぞ!黒タイツ。


 遠くから軽トラが猛スピードで近づいてきてギギギとブレーキ音を立てて側溝の近くで止まった。ブレーキパッドが減ってるぞ、整備不良車か。


 中から全身黒タイツ姿の人型ひとがたが2人、清掃用具を持って現れた。


 手際良く液状化した怪人の残りを回収し、側溝の蓋を開け下水管の中まで潜って行き清掃作業をやり始めた。


「感心感心、キミも見習いたまえ」


 黒タイツのおかげで下水に流れたのは液状化した怪人だとわかってもらえたようで、俺は解放されパトカーから降りた。


 黒タイツは、ついでに散らかったカップうどんも掃除して、倒れたテーブルを起こして拭いてくれた。怪人がやったこととは言え、黒タイツにやってもらうのは申し訳ない。


 お礼を言うといいよいいよ気にするなと頷いた。


 元の状態よりも綺麗になった側溝を見て黒タイツは満足げにうんうんと頷いて帰って行った。



 やれやれ、ひどい1日だった。橘のおやっさんのスナックでカップうどんを作り直そう。


「おやっさ~ん」


 扉を開けると見知らぬ女の人がおやっさんと喋っていた。


 か、可愛い。黒髪ロングに膝丈のプリーツスカート、黒スト、そしてここが肝心なんだが、貧乳!ドンピシャど真ん中どストライクだ!


「お疲れさん、カップうどん食うかい?」


「もちろんだ、おやっさん。それでこの人は?」


「このはな、橘研究所の秘蔵っ子、沙織さおりちゃんだ」


 説明しよう、橘研究所というのは悪の秘密結社「優しくしてね」の組織や怪人のことを分析するためにおやっさんが作った研究所のことだ。


「初めまして。只今ご紹介に預かりました沙織ちゃんで~す。さおりんって呼んでね!」


 な、なんだ、ぶりっ子キャラか?見た目のイメージと違うぞ。


「さおりん、正義のヒロイン始めました!よろしくね!」


 おやっさんが補足説明をした。


「いや、怪人の相手をお前さんだけに頼むのも悪いと思ってな。研究所では怪人の研究をしてもらってるんだが、現場にも出てもらうことにしたんだ」


「お前さんだけじゃ頼りにならないから、さおりんも現場に出るのよん!」


「なんだとぉ!」


「まあまあ、仲良くしてくれよ。それで今日の怪人はどうだった?新型怪人か?」


 俺は釈然としない思いを抱えながらも、今日の顛末を教えた。


「ふーん、なるほどね」


 さおりんは眼鏡をかけた。レンズが入ってないから明らかにダテ眼鏡だ。


「新型怪人はまだ完全体では無いとみたわ。だから長時間の正座で不安定な細胞が圧迫され崩壊して液状化したのよ、うん間違いないわ」


 わかったぞ、これは研究員キャラだ。


 さおりんは眼鏡を外した。


「現場に出たらそういうことを目の当たりに出来るのね~、楽しみだわ、キョピ」


 キョピ?面倒な仲間が増えたが、見た目はどストライクだ。よし、これからも怪人をバッタバッタと倒して良いとこ見せてやるぞ!


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