第18日-1 報告
約束の時間に局長室に入ってみたら、なんとまあ、ミツルくんの他に先客がいた。皆さんご存知のリュウくんだ。
「お、リュウくんだ。久しぶり~」
ひらひら~と手を振って挨拶したら、眉を垂らして困ったような表情を浮かべた。
「えっと……たった二週間です。さほどの時間でもないと思いますが」
二週間って結構な日数だと思うけど、つれない奴。でもまあ、この前偶然会う前までは一年顔を合わせていなかったわけだから、それと比べれば大した期間ではないか。
「それで、グラハムさんはどうして局長室に?」
「昨日のどたばたと、今日見つけた面白いことのご報告。リュウも?」
「僕も、昨日の捜査でお伺いしたいことがあって来ました」
リュウライの捜査。つーと、RT理論の提唱者の足跡か、オーラス社が所有していた不審な建物の件か、それとも列車事故の件か……。研究者追っかける方は良いとして、残りの二つは危ない匂いがしなくもないよなぁ。また誰かとバトルしました、なんて言い出しやしないだろうな。
「……なんですか?」
まじまじと見ていたら、鬱陶しそうにリュウライが尋ねてきた。
「いや、怪我してないみたいだな、と思ってさ。良かった良かった」
「大袈裟な」
呆れたようにミツルが突っ込む。
「僕もそうしょっちゅうヘマはしませんよ」
子ども扱いするな、とばかりにリュウライは口を尖らせる。とはいえ、治りかけたお顔の傷がほんのりと赤く残っているのを見ると不安になるんですけどねぇ。
それに、よく見るとなんだか疲れている様子もある。寝不足か? 遊んでて、って性格じゃないから、いったいなーにしてたんだか。
「お前さん方が、特に止められるはずのミツルくんがそんなんだから、余計心配になるんだけどねぇ?」
皆さん忘れがちなようだけど、この子まだ二十なんだよね。まだまだ青年を名乗れる年頃ってわけだ。歳取りゃ危ないことして良いってわけじゃないけどさ。いや、むしろ若いからこそ変な癖つけちゃいけないっていうか。
俺自身あんまりウザいのもどうかなと思って、これまであんまり構って来なかったけど……こりゃあ、もう少し気にかけてやらなきゃいけないかもなぁ。
周り、こんなんしかいないもんなー。
シラーっと見ていたら、ミツルくんがこっちの視線に気づきました。
「……なにか?」
「イイエーナンデモ」
思っていることは口に出さず、適当に流す。たぶんこいつに何を言っても無駄。「リュウくんに無茶させないように、止めて」なんてお願いしようものなら、絶対「なんでですか?」って返してくるに違いない。
「……人の部屋でなにをじゃれついている」
こいつは敵だ、とミツルくんを睨んでいる最中、背後からラキ局長の呆れた声が掛けられたので、俺の背中がぴん、と伸びる。はい、元凶遅れて登場。
「遅かったですね、局長。何してたんですか?」
ミツル経由とはいえ、時間指定してきたの、局長なんだけどな。俺がほぼ時間ぴったりに来たので、局長のほうが遅れてる。
「仕事だ。私も暇ではない」
ぼかしたってことは、言えない仕事ってことですかね。この人も大概秘密主義だ。だから特捜なんてものを作ったりするんだろうが。
……俺、なんで最近この人にコキ使われているんだろうなー。そこのところ、実は気にならないでもない。特捜を使えば良いだろうに。ワットくん捕まえたから? そんなもん、無理やりにでも引き継がせりゃ問題ない。俺は所詮使われる方の人間なんだし、押さえつけられりゃ納得せざるを得ないっていうのに。
なんだか面倒な予感がひしひしとする。この件が終わったら、早いうちに縁を切らせてもらおうか。ああ、でもそうするとリュウライが無茶するのを止める奴がいない。俺の平穏とリュウライの無事が天秤にかけられてるっていうのか。
あれこれこちゃこちゃ考えている横で、ラキ局長が部屋を横切りデスクに腰掛けた。さて、両手を組んで机に乗せて、きつい灰色の目を俺たちに向ける。
「手短に、これまでの報告を聴かせてもらおうか。まずは……そうだな。〈クリスタレス〉の出所について話してもらおう。私もリュウライも報告書は目を通しているが、状況整理のためにもはじめから経緯を話してくれ」
まずは俺の出番ってわけだ。それにしても〈クリスタレス〉の用語を平然と使ってきやがったな。ってことは、アーシュラたちの報告はちょいちょい受けているわけだ。
「まず最初に、オーラス光学研究所ですが、まだこちらはなんとも言えません。所長さんはなんか知っている風で怪しいとは思うのですが、確証が足りない。調べるにも取っ掛かりがなかったんで、今は保留にしてました」
「
「それについては、後程。
光学研がそんな感じだったんで、子どもたちから探りを入れてみました。そしたら、ビンゴ。ワット少年も合わせて四人がオーパーツを所持していましたよ。うち、三つが〈クリスタレス〉。
リーダーのアスタによると、このオーパーツを提供したのは、ゴンサロ・カミロという男です。住まいはディタ区。勤務先はオーラス精密」
オーラスの名前に、局長は目を瞠った。
今朝起きて、ここに来るまでの間。俺は、昨日アスタたちから聴いた〝カミロ〟という男について調べてみた。もともとそのカミロという男は、ワットの知り合いだったらしいという話をアスタたちから聴いていたから、偽名の可能性は少ないだろうと思って試しに役所で名前を探してみたんだな。そうして見つけたのが、〝ゴンサロ・カミロ〟。大陸から移り住んできた、現在四十歳の男だ。
不良少年という立場の所為で金に困っていたアスタたち。そこにワットがそのカミロを連れてきたのだそうだ。そして奴は「あるバイトをしてくれれば、それなりにいい金額出す」なんて甘言を添えて、オーパーツを渡してきたのだそうだ。
怪しいと思いながらも、アスタたちは引き受けた。違法品を扱うとはいえ、麻薬や盗みなど人を傷付けるようなものじゃないし、〝被験体〟もグループの中からたった四人を選ぶだけ。リスクはそれほど高くないように思えたんだそうだ。……その辺の勘定の甘さは、やっぱガキだよな。
「カミロはアスタたちにオーパーツを使わせ、定期的に彼らの健康状態を調べさせました。それを請け負っていたのが、オーラス光学研究所です。前にリュウライ経由で報告したモニターのバイトがそれでした。奴の狙いは、〈クリスタレス〉使用による人体の影響を見ていたものと推測されます」
「人体の影響、だと?」
初耳だ、とばかりに局長が白い眉を中央に寄せる。そうか、その件についてはまだアーシュラたちから聴いていないんだな。
これまで
俺もキアーラの話を聴いて、大丈夫だと分かっていても、自分のオーパーツが気持ち悪いもののように思えてきたし。メイは……大丈夫かなぁ。昨日キアーラとフォローしたけれど、実際に倒れた子が気楽に過ごせるはずもないだろう。あんまり思い詰めたりしないと良いんだけどな。
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