奪いたかったものたち
得られなかったものがある。
本当は欲しかった玩具だとか、
思い描いていた夢だとか、
余裕のある生活だとか、
充分に楽しめる趣味だとか、
それらを得るための金銭だとか、
彼らからの愛情だとか、
貴方の心だとか。
だから、奪いたいと思った。
彼の富を羨んだ。
彼女の才能を妬んだ。
あの歌声を貶したかった。
何もかも、私には持ち得なかったことが、
虚しく、寂しく、空虚で、絶望した。
真似事だと識りながら、
それは私の特別でないと解りながら、
それでも、私は、奪いたかった。
誰かの興味や、憧れや、ぬくもりや、心を。
また今夜も、焦燥に駆られながら、
呪いを綴っている。
「私が、本物だ!」
偽物の遠吠えでしか無い。
虚構ばかりの見栄だ。
それでも、信じられたかった。
信じたかった。
私にしか得られないものもあるということ。
誰にも奪えないものがあるということ。
それが、間違いなく、私に向けられた、
特別な愛であるということ。
許されるならば、貴方のささやかな微笑みを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます