奪いたかったものたち


得られなかったものがある。



本当は欲しかった玩具だとか、

思い描いていた夢だとか、

余裕のある生活だとか、

充分に楽しめる趣味だとか、

それらを得るための金銭だとか、

彼らからの愛情だとか、

貴方の心だとか。



だから、奪いたいと思った。

彼の富を羨んだ。

彼女の才能を妬んだ。

あの歌声を貶したかった。

何もかも、私には持ち得なかったことが、

虚しく、寂しく、空虚で、絶望した。



真似事だと識りながら、

それは私の特別でないと解りながら、

それでも、私は、奪いたかった。


誰かの興味や、憧れや、ぬくもりや、心を。



また今夜も、焦燥に駆られながら、

呪いを綴っている。


「私が、本物だ!」


偽物の遠吠えでしか無い。

虚構ばかりの見栄だ。

それでも、信じられたかった。

信じたかった。











私にしか得られないものもあるということ。

誰にも奪えないものがあるということ。

それが、間違いなく、私に向けられた、

特別な愛であるということ。



許されるならば、貴方のささやかな微笑みを。

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