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 風切音を伴って飛来した黒槍を弾き飛ばす。





 黒い影はその素早い身のこなしで木々を足場に周りを縦横無尽に飛び回る。


 そして、死角に入るとすかさずこちらに攻撃が飛んでくる。


 かなり手慣れた動きだ。恐らく獲物を狩る時の常套手段だったのだろう。




 (この形状と動き……恐らく元になったのは猟犬か)



 通称、“猟犬”。正式名称はハウンドウルフ。スピード特化の一匹狼。その凶暴さと俊敏性からとても危険視されている魔物モンスターだ。確か脅威度は……なんとSクラス。



 すぐ後ろには守るべき者。そしてあらゆる死角から飛んでくる死の槍。この状況下で、さて……どう対処するべきか――――




 やつが死角に侵入した。その瞬間を狙って刀を


 紙一重で避けられる。が、黒槍が飛んでくることはなかった。

 やつはしっかりと自分の動きを見て対応してくる。流石に簡単にはいかないようだ。



 (逃げはしない……か)



 やつが逃走を計ったところで追いつく自信はある。が、相手が逃げないならその方が好都合だ。少し策を講じようか。




 新たな刀を作って投擲。右手、左手、右足、左足……やつが幾度も死角へ回るたびに妨害していく。



 さて、これは我慢比べだ。



 どちらが先に痺れを切らして動くか。そこがこの死合の転機となる。



 幾度となく視線が交錯し、お互いの緊張が高まる中――――それは思ったより早かった。





 やつに向けて刀を投げる。その瞬間を狙って――――やつが動いた。





 木の上から飛び出した影はつむじ風の如く、鋭い殺意を持ってこちらに飛びかかる。




 これを待っていた。




 常人では捉えられない速度で迫る相手。


 対する自分は――で、やつの必殺の一撃を……紙一重で避ける。む、少し髪の毛が掠ったか。こいつやるな。



 まさか自慢の一撃を回避されるとは思わなかったやつの動きが刹那に鈍る。



 その交錯は一瞬にも満たない。しかし、その瞬間に――――







 やつの尻尾を掴む。全身を巡る魔力を瞬時に活発化させる。




「――――はっ……ルァッ!!!!」




 思わず品のない掛け声を上げてしまった。が、想定外の反撃にあったやつは成すすべもなく力のベクトルを変更される。




 それは――――




 足場のない、動きが制限される空間。しかし、それは一瞬のことだ。化け物はその常識を易々と超えてくる。


 危険を瞬時に悟ったやつは空中でありながら地上へ降りようと方向転換する。しかし、それはあきらかな隙であった。




「逃がすわけないでしょ――――“封刄”」




 森の中に点在する光。それは自分が投げ捨てていた刀。



「なんのために投げてたと思ってるのよ」



 それが瞬く間に一点へと収束する。




 ――――グルァッ!?




 始めてやつが鳴いた。魔術が効かない身体でも高濃度の魔力なら動きぐらい止められる。



 一斉に突き刺さった無数の刃がやつを空中で磔にする。



 これでやつは体の良い“まと”同然だ。ただしこれも数分が限度。




「“霊廟術符アルカナ”」




 裾から一枚の紙を出す。それを宙に投げ、重力によって落ちてきたそれを刀で横薙ぎにする。

 すると、真っ二つになった紙が赤く輝いたと思えばそれは刀に纏わりつき刀身を真っ赤に染め上げた。




「世界から去れ――――祓除ッ」




 腕を振りかぶり、足を踏み込む。今度は……外さない。



 ――――全身全霊全力投擲。



 放たれた宙を翔ける紅の一閃――――それは狙い違わず、やつに突き刺さった。

 “紅”は瞬時に他の刀に伝播し、術が……発動する。




 “夕焼けよりも鮮烈に赤く、しかし太陽より冷酷に冷たい”



 

 その輝きはやつの断末魔もかき消して、音もなく蒸発する。



 ――――瞬く間に消失。



 そこには元からなにもなかったかのように跡形もなく、穏やかな風が吹いているだけだった。





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