三杯目 煙の回送列車(後編)

店長に事情を話しカウンターについてもらう。

冷やしておいたライチジュースを出しシェイカーに注ぐ。

そこにブルーキュラソーシロップを入れる。

このままだと甘すぎるのでライムを加え味見。

よしまとまった。

このままシェイクするが少し工夫をしよう。

ボストンシェイカーに入れ替え、ティンを被せる。

シェイカーを構え空気が多く含むように大きく振る。

ストレイナーを被せ注ぎきる。作るのも慣れてきた。


「どうぞ。試飲お願いします。」


牧瀬さんの前にカクテルを置く。

牧瀬さんは恐る恐るグラスを受け取る。

青いカクテルが牧瀬さんののどを通る。


「さわやか……スッキリする味……」


牧瀬さんは驚き目を開く。


「このカクテルには、海のイメージが強いブルーキュラソーのシロップを使いました。牧瀬さんは何か悩んでそうだったので、スッキリしてもらおうかと思い作りました。」


実際牧瀬さんが経営している煙草屋がある駅には近くに海がある。その話を聞いていたこともあってこのカクテルが作れたようなものだ。

カクテルをグイっと飲み干した牧瀬さんは今日一番の笑顔を見せ


「ありがとう!おかげでスッキリした!」


そう言って店を出て行った。

不思議なテンションで終えた営業後、牧瀬さんに振舞ったカクテルを店長に出すことにした。てかもう振舞えと言わんばかりに待っている。これぞ無言の圧力だ(汗)

店長の前に出し、自分の分も作り始める。

作り終えた後店長が


「よくこんなに思いつくよね~」

と驚きの表情を見せてくれた。


そのあと店長が名前を考えると言ってくれたのを制し


「このカクテルにはもう名前を付けました」


と自信満々に言ってみた。恥ずかしい。

店長はにやにやしながら、


「どんなものか聞こうじゃないか」


とノリノリに答えてくれた。

牧瀬さんのように悩んでいる心を癒せるカクテル

まるで電車に乗ってゆらゆらとリラックスできるように


「このカクテルは、深海列車 と名付けます」



次の日、何気なく見た新聞の記事に男性の死亡記事が載っていた。

その記事によると遺体の近くに大量の吸い殻があったという。

その記事を見ながら、ふと牧瀬さんのことを思い出した。

元気でいるだろうか。

牧瀬さんはあのたばこで何が見えていたんだろう。

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